乳房エコー検査
乳房エコー検査(乳房超音波検査)は、乳房内の組織を詳細に観察し、腫瘤性病変を評価するための重要な手段です。乳房の腫瘤性病変には、良性と悪性のものがあり、それぞれ特徴が異なります。本記事では、乳房エコーで見られる腫瘤性病変について、良性と悪性の病変の特徴や診断のポイントについて解説します。
1. 乳房エコー検査の概要
乳房エコー検査は、放射線を使用しないため被曝のリスクがなく、妊婦や若年層に対しても安全に施行できます。エコー検査では、乳腺組織の状態をリアルタイムで観察でき、腫瘤の性状、形状、境界、内部構造などを評価します。乳房エコーでの腫瘤性病変の観察は、マンモグラフィと併用することで診断精度が向上します。
2. 良性の腫瘤性病変
良性の腫瘤性病変は、通常は悪性病変と比べて成長が遅く、周囲組織への浸潤や転移のリスクが低いです。以下に代表的な良性病変について説明します。
2-1. 線維腺腫
線維腺腫は若年女性に多く見られる良性の腫瘤で、エコーでは均一で境界が明瞭な丸い腫瘤として映ります。内部は均一で、エコー上では低エコーから等エコーの病変として見られることが一般的です。また、圧をかけると形が変わりやすいという特徴があります。
2-2. 嚢胞(シスト)
嚢胞は液体で満たされた袋状の腫瘤で、エコーでは無エコー(エコーがない)として見られ、内部が均一であることから簡単に診断が可能です。嚢胞は閉経前の女性に多く、ホルモンの影響でサイズが変化することもあります。嚢胞が単独であれば悪性の可能性は極めて低いです。
2-3. 乳管拡張症
乳管拡張症は、乳管が拡張し、エコーで管状の無エコー構造として観察される状態です。多くの場合、症状はなく、偶然発見されることが多いです。良性のため、特に治療を必要としない場合が多いですが、症状が出現する場合や大きさが急激に増加する場合には追加の検査が必要です。
2-4. 脂肪腫
脂肪腫は脂肪細胞から構成される良性腫瘤で、エコーでは低エコーから無エコーとして観察されます。丸みがあり、境界が明瞭であることが特徴です。通常、痛みを伴わず、成長が遅いため経過観察で対応することが多いです。
3. 悪性の腫瘤性病変
悪性の腫瘤性病変は、がん細胞の増殖に伴い、周囲組織への浸潤やリンパ節への転移がみられる可能性があります。早期発見と診断のため、エコーによる特徴の理解が重要です。
3-1. 浸潤性乳管癌
浸潤性乳管癌は、乳がんの中でも最も一般的なタイプで、乳管から発生して周囲の組織に広がる特徴があります。エコーでは、不整形で境界が不明瞭な低エコー腫瘤として観察されることが多いです。内部は不均一で、エコーの後方に陰影を生じることが多いため、これが悪性の指標となることがあります。
3-2. 浸潤性小葉癌
浸潤性小葉癌は、乳腺小葉から発生する悪性腫瘤で、エコーでは境界が曖昧な低エコー腫瘤として見られます。浸潤性小葉癌は多発する傾向があり、乳房内の広範囲にわたって浸潤するため、早期発見が難しい場合があります。
3-3. 乳管内癌(非浸潤性乳管癌)
乳管内癌は、乳管内で増殖する非浸潤性の腫瘤で、エコーでは低エコーから等エコーの不整形腫瘤として観察されることがあります。非浸潤性であるため浸潤のリスクは低いですが、放置すると浸潤性乳がんに進行する可能性があるため、早期の治療が推奨されます。
3-4. 肉腫やリンパ腫
乳房内で稀に発生する悪性腫瘤として、肉腫やリンパ腫が挙げられます。これらは通常の乳がんとは異なる性質を持ち、エコーでは非常に不整形で境界不明瞭な腫瘤として観察されることが多いです。通常、急速に増大し、圧痛を伴うことが多いため、早急な診断と治療が求められます。
4. 良性と悪性の鑑別ポイント
乳房エコーでは、以下の特徴が良性・悪性の鑑別に役立ちます:
- 境界の明瞭さ:良性腫瘤は境界が明瞭で、悪性腫瘤は境界が不明瞭なことが多い。
- 形状:良性腫瘤は丸みを帯びた形状であることが多く、悪性腫瘤は不整形であることが多い。
- エコーの内部構造:良性は均一なエコーを示しやすいが、悪性腫瘤は内部が不均一であることが多い。
- 後方エコー:悪性腫瘤では後方に影を生じることが多い。
- 成長速度:悪性腫瘤は比較的速く成長することが多い。
5. 追加検査と診断
エコー検査で悪性の可能性が示唆された場合、さらなる診断のために以下の検査が行われます:
- マンモグラフィ:乳房エコーと併用することで腫瘤の性質や石灰化の有無を評価できます。
- MRI:乳房MRIは悪性腫瘤の広がりや多発性の評価に有用です。
- 針生検:細胞や組織を採取し、病理検査を行うことで確定診断を行います。
6. まとめ
乳房エコー検査は、乳房の腫瘤性病変の評価において非常に有用であり、良性と悪性の鑑別に役立ちます。良性病変には、線維腺腫や嚢胞、乳管拡張症、脂肪腫などがあり、これらは一般的に境界が明瞭で均一な構造を持ちます。一方、悪性病変には、浸潤性乳管癌や小葉癌などがあり、不整形で境界不明瞭、内部が不均一な特徴があります。エコー検査で疑わしい所見があれば、追加の画像検査や生検を行い、早期診断と適切な治療を目指します。