乳がんはどこから発生するのか
乳腺の細胞にできるがん
ほとんどの乳がんは、乳汁@にゅうじゅう@の通り道である乳管@にゅうかん@と乳汁の製造場所である小葉@しょうよう@から発生します。
乳房は、簡単にいえば、乳腺組織と脂肪などの皮下組織、皮膚からなりたっています。乳頭部には、乳汁の通り道である乳管が15~20ほど集まっています。その枝分かれした先にあるのが、小葉というブドウの房のような組織です。一粒一粒のブドウの実にあたるのが腺房@せんぼう@という袋状の組織で、腺房が集まって小葉を形成しています。
乳汁は、この腺房で分泌されて、乳管を通り、乳頭から出てきます。
乳がんの約9割は、乳管の上皮細胞から発生します。それも、小葉の近く、小葉を出てすぐのあたりにできることが多いことがわかっています。小葉で発生する乳がんは小葉がんとよばれ5%程度の頻度となっています。
部位でいうと、乳房の外側上部に乳腺組織が多いため、乳がんもその場所にできやすくなっています。
非浸潤がんから浸潤がんへ
では、乳管に発生した乳がんは、どのように成長していくのでしょうか。
乳管は、文字通り乳汁が流れる管です。乳管の内側は、一層の上皮@じょうひ@細胞によっておおわれています。乳がんは、この上皮細胞ががん化することから始まります。最初は管の内側で増殖し、この乳管のなかで外から触れることができるほどがん細胞が増えることもあります。
このように、乳がんが乳管の中にとどまっているものを「非浸潤@ひしんじゅん@がん」といいます。この段階では、がん細胞が無秩序に増殖しても転移は起こしません。ステージでいうと「0期」と呼ばれる状態です。
こうした初期の非浸潤がんでも、マンモグラフィ検査やエコー検査によって見つけることができます。まだがんは発生した局所にとどまっているので、非浸潤がんの段階で発見し、適切な治療を受ければ理論上は100%治ります。つまり、完治できるのです。非浸潤がんで発見される割合は日本全体では10%程度と思われますが、検診の普及につれて上昇し高い施設では20~30%程度になっています。
増殖した乳がんは、やがて上皮細胞を支える基底膜@きていまく@を破り、乳腺や小葉の壁を越えて乳管の外に広がっていきます。これが、「浸潤がん」といわれる状態です。シコリができてくるのもこのころからです。がんがある程度大きくなると、腫瘤@しゅりゅう@を形成するので、画像検査で発見しやすくなります。自己検診でシコリに気づくのも、大多数が浸潤がんの段階です。
乳がんは全身病
しかし、ここでやっかいな問題が出てきます。乳がんは、浸潤がんになったとたんに、血液やリンパ液の流れに乗り、「転移」を起こす可能性が出てくるのです。
「転移は、かなりがんが進行した段階で起きるのではないか?」と思っている人が多いと思いますが、乳がんの場合は、かなり早くからがん細胞が血管やリンパ管に入り、全身をめぐると考えられています。そのため、「乳がんは最初から全身病である」という意見もあります。
浸潤がんとして発見された方は、その時点で全身にがんの芽が流れ出している可能性があります。といっても、全身に散らばったがん細胞が、即転移につながるわけではありません。大部分は、免疫などの力で淘汰@とうた@されていると考えられています。
その中で、一部のリンパ節や臓器に流れ着いたがん細胞が、そこで生き残って根を張り、増殖すると考えられています。それが、やがてリンパ節や臓器の転移となってあらわれてくるのです。
リンパ節の転移だけであれば十分完治できる可能性がありますが、臓器の転移は完治させることが困難になります。現在の乳がん治療は、こうした乳がんの性質をわかった上で行われています。
現在、乳がんの手術は、乳房内のがんを確実に切除することを原則としています。60%程度の方はある程度美容的に乳房を残せるため乳房温存手術を行いますが、それができにくい方は乳房を切除(全摘)する手術を行います。確実な手術に放射線治療を組み合わせて局所のがんをコントロールし、さらにホルモン療法や抗がん剤などで全身のがんの芽を摘み取って再発や転移を防ぐ、というのが基本的な考え方になっています。
ただし、がんが進行すれば進行するほど、再発や転移のリスクが高まることはほかのがんと同じです。早期発見が重要であることに変わりはありません。