乳房再建術の考え方

乳房再建術は、乳がんの治療後、特に乳房切除術(乳房全摘出術)を受けた患者に対して、失われた乳房の形態を再構築するための外科的手術です。この再建術は、患者の身体的な外見を回復させるだけでなく、心理的な満足感や自己イメージの向上にも重要な役割を果たします。ここでは、乳房再建術の基本的な考え方や方法、選択肢、手術のタイミング、リスクとベネフィット、そして再建後の生活についてまとめます。

1. 乳房再建術の意義と目的

1.1 乳房再建術の重要性

乳房は、女性にとって外見的な特徴だけでなく、女性としての自己認識や自尊心にも深く関わる部分です。乳房切除を受けた後、多くの女性が自分の身体に違和感を覚え、精神的な負担を抱えることがあります。再建術は、このような問題を軽減し、女性が自己イメージを回復する助けとなります。

再建術には、次のような主な目的があります。

  • 身体的な形態の回復:失われた乳房の外見を再現し、左右のバランスを整える。
  • 心理的な満足感の向上:自己イメージを改善し、手術後の心理的なストレスや不安を軽減する。
  • 服装の選択肢の拡大:乳房の形が再建されることで、特定の衣服や水着を着る際の自信が回復する。

1.2 乳房再建術の選択の自由

乳房再建術は、すべての乳がん患者に必須の治療ではなく、個々の患者の希望や治療方針に基づいて選択されるべきものです。再建を希望しない患者もいれば、医療的な理由や経済的な制約で再建を行わない場合もあります。また、再建術を希望する患者でも、再建のタイミングや方法についてはさまざまな選択肢があります。これらは患者が医師と相談し、自分に最適な方法を選ぶことが重要です。

2. 再建の方法と選択肢

乳房再建術には大きく分けて2つの方法があり、患者の状況や希望に応じて選択されます。

2.1 インプラントを用いた再建

インプラント(人工乳房)を用いた再建は、シリコンまたは生理食塩水を充填したインプラントを胸部に挿入して乳房の形を作る方法です。この方法は、手術の負担が比較的少なく、手術時間も短縮されるため、多くの患者が選択する再建方法です。

メリット

  • 手術が比較的簡単で、入院期間が短い。
  • 身体の他の部分から組織を採取する必要がないため、追加の手術が不要。
  • 将来的にインプラントのサイズを変更することが可能。

デメリット

  • インプラントは人工物であるため、定期的なメンテナンスが必要(インプラントの寿命は約10~20年とされています)。
  • 感染やインプラント破損のリスクがある。
  • 放射線療法を受けた患者では、インプラントの周囲に硬い組織(カプセル拘縮)が形成される可能性がある。

2.2 自家組織を用いた再建

自家組織を用いた再建は、患者自身の体の他の部分から皮膚、脂肪、筋肉などの組織を採取し、それを使って乳房を再構築する方法です。腹部、背中、太ももなどから組織を採取することが一般的です。

メリット

  • 自然な触感と見た目を持つ再建が可能。
  • インプラントとは異なり、長期的なメンテナンスが不要。
  • 放射線療法を受けた患者にも適している。

デメリット

  • 手術が複雑で、手術時間や回復期間が長くなる。
  • 組織を採取する部分に傷跡が残る。
  • 採取部位での合併症(感染や出血など)のリスクがある。

2.3 インプラントと自家組織の併用

一部の患者では、インプラントと自家組織を組み合わせた再建が行われることがあります。これは、乳房のボリュームを増やすためにインプラントを使用し、自家組織を用いてより自然な外観を作り出す方法です。このアプローチは、特に乳房切除後の放射線治療を受けた患者にとって有効です。

3. 再建のタイミング

乳房再建術は、がん治療の進行や患者の全体的な健康状態によって、手術のタイミングが異なります。一般的には、次の2つのタイミングが考えられます。

3.1 同時再建

乳房切除術と同時に再建術を行う方法です。このアプローチは、手術回数が減り、心理的なストレスが軽減されることが大きな利点です。また、胸の皮膚や乳房の輪郭が保存されやすいため、再建後の見た目も自然な仕上がりになることが多いです。

メリット

  • 乳房切除後すぐに再建が行われるため、心理的な負担が少ない。
  • 皮膚や組織が温存されるため、より自然な乳房再建が可能。

デメリット

  • がん治療(化学療法や放射線療法)と並行して行われるため、治療全体が複雑になる場合がある。
  • 再建中に治療が中断されるリスクがある。

3.2 遅延再建

乳房切除術後、一定の期間を置いて再建術を行う方法です。患者の状態が安定し、がん治療が完了してから再建が行われるため、治療との干渉を避けることができます。

メリット

  • がん治療に専念できるため、再建に関するリスクが低減される。
  • 放射線治療の影響を受けるリスクが少ない。

デメリット

  • 乳房がない状態が続くため、心理的な負担が長くなる可能性がある。
  • 皮膚や組織が萎縮してしまうことがあり、再建が複雑になる場合がある。

4. 再建のリスクと合併症

乳房再建術にはさまざまな利点がありますが、同時にリスクや合併症も伴います。手術前にこれらのリスクを十分に理解し、医師と話し合っておくことが重要です。

4.1 感染

再建術後に感染が起こることがあり、特にインプラントを使用した場合は注意が必要です。感染が重篤な場合、インプラントを一時的に除去し、再度挿入する必要が生じることがあります。

4.2 カプセル拘縮

インプラントを使用した場合、インプラントの周囲に硬い組織(カプセル)が形成され、乳房が硬くなったり、痛みを伴うことがあります。この状態をカプセル拘縮と呼び、インプラント再挿入が必要となることがあります。

4.3 組織壊死

自家組織を用いた再建術では、移植された組織の一部が血流不足により壊死するリスクがあります。壊死した組織は除去する必要があり、場合によっては再度手術を行うことになります。

5. 乳房再建後の生活とケア

5.1 手術後の回復期間

乳房再建術の後、回復には時間がかかります。手術の種類や患者の体調によって異なりますが、回復期間は数週間から数ヶ月に及ぶことがあります。痛みや腫れは時間とともに治まりますが、定期的なフォローアップが必要です。

5.2 再建後のケア

再建後は、定期的な検診を受けることが重要です。インプラントを使用した場合、インプラントの状態を確認するために、定期的なMRIや超音波検査が推奨されます。また、自家組織を使用した場合でも、乳がんの再発や転移を早期に発見するために定期的な検査が欠かせません。

5.3 心理的サポート

再建術は身体的な回復だけでなく、心理的なケアも必要です。乳がん患者の多くは、手術後の心理的な不安やストレスに直面します。再建後の生活においては、家族や友人、カウンセリングのサポートを受けながら、心身のバランスを保つことが大切です。

6. まとめ

乳房再建術は、乳がん治療後の女性にとって重要な選択肢の一つです。再建術を選択することで、身体的な外見を回復するだけでなく、心理的な満足感や生活の質が向上します。しかし、再建術にはリスクや合併症も伴うため、手術のタイミングや方法については十分な検討が必要です。医師と患者がしっかりとコミュニケーションを取り、個々の患者に最適な再建プランを立てることが、成功への鍵となります。


乳房再建術の考え方

再発発見の遅れは心配ない

最近は、日本でも、乳房温存療法が乳がん手術の半数を占めるようになりましたが、それでもまだ乳房切除術が必要な人が多くいます。こうした人に、ぜひ知っていただきたいのが乳房再建術です。
乳房再建が終わってはじめて乳がん手術が完了する、といわれるほど乳房再建が一般化している国もあります
日本でも、ようやくここ10年ほどの間に乳房再建に対する関心が高まり、再建術を受ける人も少しずつですが増えてきました。乳房再建の技術そのものも、ずいぶん進歩しています。
乳房再建をためらう理由の一つに、「再発の発見が遅れるのではないか」という心配があるようです。しかし、人工乳房(インプラント)を挿入するのは大胸筋の下で、局所再発の場合は、もっと表面の皮膚や皮下に出ます。超音波検査など、体の外から内部の状態を調べられる検査も発達しているので、特にこの方法の場合乳房再建によって再発の発見が遅れる心配はないと考えてだいじょうぶです。

事前に十分吟味して

また、乳房を喪失してつらい思いをするのは、若い人も年配の人も同じです。現実問題として、左右のバランスが悪い、温泉旅行が楽しくなくなった、補整下着をつけるのが面倒、夏でも胸のあいた服が着られないなど、いろいろな不自由を感じることも少なくありません。もう年だから、と再建を恥ずかしがる必要はまったくないのです。
大切なことは、手術を受ける前に十分再建の方法や時期、執刀医の力量などを吟味し、再建後のイメージをある程度つかんでから再建術を受けることです。
再建術を執刀するのは、基本的に形成外科の医師です。患者側の条件にもよりますが、執刀医の力量によっても出来ばえはだいぶ違います。左右ふぞろいで、何のために再建を受けたのかわからない、といったことにならないように、事前に十分基礎的な知識を持って、方法や時期、施設などを選択しましょう。

時期と再建の方法に2種類

乳房再建は、再建の時期によって2つに分けられます。乳がんの手術と同時に行うのが「一期再建」、がんの手術後あらためて乳房再建を行うのが「二期再建」です。さらに、再建に何を使うかで2種類に分類されます。人工乳房(インプラントともいわれ、シリコンバッグなどを使う)を使う方法と、自分の皮膚や筋肉など自家組織を使う方法です。
がん治療で胸に放射線照射を受けているかどうかで、選択肢も大きく違ってきます。まず、こうした条件を一つずつ考えていきましょう。

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一期再建か二期再建か

手術回数が少ないのは一期再建

最初に、乳房再建の時期を考えてみましょう。
先に述べましたように、がんの手術といっしょに再建術を行ってしまう一期再建と、手術が終わったあとでもう一度再建のための手術を行う二期再建という選択肢があります。
一期再建の利点は、何といっても、自家移植ならば一度に手術が終わってしまうことです。人工乳房を使っても、手術回数は1回少ないので、それだけ体の負担が少なくてすみ、費用も安くなります。さらに、麻酔から覚めたときにはすでに乳房が再建されているので、自分が乳房を失った姿を見ないですむのも利点といえるでしょう。

じっくり考えるなら二期再建

では、一期再建のデメリットは何かといえば、やはり十分に吟味する時間がないことです。特に、自分ががんだとわかったショック、おそらく初めて受ける手術への不安感などで、頭の中はいっぱいだと思います。その先にある乳房再建の問題で、どういう方法を選んだらいいのか、どこの施設や医師に再建術をしてもらったらいいのか、といったことまで考える余裕がない人がほとんどだと思われます。
病理の検査結果が判明していない時点で再建手術を行うことの問題もあります。後でリンパ節転移が多かったとか、切除検体の断端が陽性などの結果がでると対応に苦慮することになります。
また、乳房に局所再発した場合には、切除が基本ですから、せっかく再建した乳房を取り外さなければなりません。そういう意味では、局所再発の危険が高い2年ぐらいは待ってから再建するというのも一つの選択肢です。

放射線照射の有無も問題

もう一つ、放射線照射との関係も考えなくてはなりません。放射線照射は、皮膚にもダメージをあたえます。放射線によって皮膚が萎縮したり繊維化して固くなるので、せっかく再建した乳房も、美容的な意味がなくなることもあります。
乳房切除でも、腋窩リンパ節に4個以上の転移があれば、術後に放射線照射を行います。リンパ節転移の数がもっと少ない場合でも放射線照射を行うこともあります。
そのため、放射線照射が行われないと予想される人にしか一期再建はしない方が無難と思われています。
二期再建の場合は、ふつう乳がん手術のあとが落ちついてから、だいたい半年後ぐらいからはじめます。何年たったからもうできないということはありません。再建は、手術から5年後でも10年後でもできます。十分時間をかけて考えてから再建することもできるのです。
ただし、手術が1回余分に必要なことと、一期再建より費用がかかるのが欠点です。
こうした点をよく考えて、医師と相談しながら手術の時期を決めてください。

乳房再建には、2種類あります。

簡単な手術で挿入できる人工乳房

乳房再建は、再建に何を使うかで2つに分かれます。一つは、自分の組織を使う自家移植。もう一つは、人工乳房といって、生理食塩水の入ったバッグや豊胸手術などでも使われるシリコンバッグを埋め込む方法です。

人工乳房を使った再建術

一番簡単に乳房再建ができるのが、人工乳房を使う方法です。
人工乳房には、生理食塩水を入れたバッグとシリコン(ソフトコヒーシブシリコンなど)があります。生理食塩水のバッグは、大きさに合わせて生理食塩水を注入するので、左右の大きさをそろえられるのが利点です。ただ、水なので、乳房とはだいぶ質感が違い、ポチャポチャ音がすることもあります。
現在は、人工乳房といえばシリコンを指しています。これは、乳房とよく似た質感があり、豊胸手術にも使われています。
人工乳房を入れられるのは、胸の大胸筋@だいきょうきん@を残して乳房切除(胸筋温存乳房切除術)を行った人です。したがって、現在は乳房切除を受けた人のほとんどが該当します。

【単純人工乳房挿入法】

中でも簡単なのは、乳房切除後、かわりに人工乳房を入れる方法です。手術で乳房内部の乳腺組織だけを切除し、大胸筋はもちろん、乳房の皮膚や乳頭、乳輪なども残っている場合(乳頭乳輪温存皮下乳腺切除術)には、手術に引きつづいて人工乳房を挿入します。
まず、乳腺組織を摘出した傷からメスを入れ、大胸筋をはがします。その下に人工乳房を入れて、ふくらみを再現します。これは一期再建が基本で、十分ふくらみがつくれる皮膚が残っている人だけに可能な方法です。外見的には、比較的元に近いきれいな乳房ができます。これができる人は限られていますが、アメリカなどでは非常に人気のある方法です。

【組織拡張法】

乳がん手術は、ふつう皮膚ごと乳房を切除してしまうので、人工乳房でふくらみをつくるには、人工乳房を入れるだけの皮膚の余裕をつくらなければなりません。そこで行われるのが、エキスパンダーによる皮膚の拡張です。
簡単にいえば、皮膚を伸ばす器具を胸に入れて、ゆっくりと時間をかけて皮膚を伸ばしていくのです。そのあと、人工乳房を挿入します。したがって、それほど大変な手術ではありませんが、2回手術をすることになります。
二期再建で行う場合は、乳房切除術が終わって傷が治ったところで、エキスパンダーという拡張器を埋め込む手術をします。乳房を切除したときの傷口を利用してメスを入れ、大胸筋をはがし、その下にエキスパンダーを埋め込みます。1時間程度の手術です。
エキスパンダーは袋になっているので、最初はここに少量の生理食塩水を入れます。あとは、月に一度の割合で、生理食塩水の量を増やして皮膚を伸ばしていきます。反対側の乳房と同じぐらいのふくらみになったところで、生理食塩水の増量はストップします。そして、そのままの状態を3カ月ほど維持します。エキスパンダーを取り除いても皮膚が元に戻らないように十分に皮膚を伸ばすためです。
ここで、十分皮膚が伸びていれば、乳房もやわらかく自然な形にできます。その後、また手術でエキスパンダーを除去し、かわりにシリコンの人工乳房を挿入します。乳頭部や乳輪は、そのあとで再建します。
最初にエキスパンダーをちょうどいい位置に挿入し、皮膚を上手に伸ばすのがこの再建法のポイントです。

【人工乳房再建の長所と短所】

人工乳房を使った再建術は、体への負担か少ないのが利点です。2回手術をするといっても、両方とも1回目は1時間、2回目は30分程度の短い手術です。入院も数日以内です。
短所は、エキスパンダーで皮膚を拡張するときに、皮膚が破れたりゆがんで伸びてしまうこともあります。また、反対側の乳房は年齢とともに下垂してきますが、人工乳房を埋め込んだ乳房はいつまでも若々しく、張りがあります。その調整のために再手術が必要になることもあります。
なお費用については手術の内容、用いる素材、保険適応の有無などによって大きな違いがあります。乳頭、乳輪の形成手術、通院費用など様々な費用がかかるのでトータルでいくらになるのか、事前によく確認しておくことが必要でしょう。トラブルが起きたときの費用の扱いなども問題になる可能性があるため事前の確認が重要です。

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自家組織による再建

定型的手術(ハルステッド法)などで、乳房といっしょに大胸筋まで切除した場合は、人工乳房だけで乳房を再建することは困難です。過去にこの手術を受けた方の場合には、自家組織による乳房再建が唯一の選択肢になります。しかし現在の乳がん手術は大胸筋温存が原則のため、自家組織による再建と、人工乳房による再建の2つの選択肢があります。どちらが適しているかは、患者さんの元々の体型とがんの手術内容が決め手となります。

自家組織による再建は、患者さん自身の体の一部を使って乳房を再建する方法です。
実際には、腹部の組織を使う「腹直筋皮弁@ふくちょくきんひべん@法」と、背中の組織を使う「広背筋皮弁@こうはいきんひべん@法」があります。ここでは有茎皮弁法と呼ばれる、皮膚、脂肪、筋肉に血管をつけたまま別の部位に移植する方法について説明します。

【広背筋皮弁法】

広背筋は、腕のつけ根から背中や腰の方に向かって扇型に広がる筋肉です。この筋肉に皮膚と脂肪をつけたままはがし、血管は温存したまま、切除した乳房部に移植します。背中の筋肉は比較的薄くて脂肪も少ないので、乳房のボリュームが出にくい欠点があります。この方法は比較的負担の少ないいい方法ですが、患者さんの体型によっては不向きなこともあります。

【腹直筋皮弁法】

腹部には、中心部をタテに走る太い腹直筋が2本あります。腹部には脂肪も多く、広背筋よりボリュームが出せるのが利点です。
このうちどちらか一つの筋肉に脂肪と皮膚をつけて、さらに血管をつけたまま切除した乳房部に移植します。
腹直筋でつくった乳房は柔らかく、本物の乳房とよく似た感触があります。

【自家移植の長所と短所】

自家移植は、異物を使わないことと、やわらかいぬくもりがあるのが利点です。しかし、乳房と、組織を取ってきた背中や腹部に傷が残るのが欠点です。きれいに縫って、下着に隠れるような位置にしてありますが、傷が消えることはありません。手術自体も、人工乳房にくらべれば大きくなり、入院期間も1~2週間は必要です。
特に、腹直筋を使った手術は体への負担が大きく、元の生活に戻るためには、2~3カ月かかると思っていてください。また、腹筋が弱くなるので、これから妊娠出産を考えている人には適応できない方法です。

【遊離皮弁法】

筋皮弁を完全に遊離して血管吻合する方法もあります。デザインの自由度が増し、仕上がりが最も期待できる方法です。反面、血管吻合がうまくいかないと遊離した組織が生着しないという大きなリスクを伴います。
人工乳房の場合は、以前は周囲に線維化が起き、固く変形する(被膜拘縮)ことも少なくありませんでしたが、今でも素材がよくなりトラブルの頻度は少なくなりました。それでもこうしたトラブルがないわけではなく人工乳房を除去しなくてはならないこともあり得ます。自家組織でも、まれに組織が生着しなかったり、血流がうまく流れなくて組織が死んでしまうことがあり得るなど、医療には絶対はないため、こうしたリスクを十分理解して手術に臨まれることが必要でしょう。
なお、人工乳房による再建は保険適応外で、自家組織による乳房再建は、保険適応となっています。

【乳頭部と乳輪の再建】

乳房再建の仕上げが、乳頭部と乳輪の再建です。これは、乳房再建による乳房のふくらみが落ちついたあとで、ゆっくり行います。半年から1年ぐらいたってからと考えて下さい。
乳頭部と乳輪の再建にも、いくつかの方法があります。もし乳頭部がわりあい大きい人ならば、反対側の乳頭部と乳輪を半分切って移植することもできます。反対側の乳房から取ってくるので、色も性質も自然なのが利点です。ただ、健康なほうの乳房にもメスを入れるのが難点です。手術は1時間ほどで、傷もやがてわからなくなりますが、授乳はできなくなります。
新たにつくる場合は、乳頭部にあたる部分の皮膚を立体的に盛り上げ、乳輪は入れ墨で皮膚を染めてつくります。反対側の乳頭部や乳輪の移植には保険が効きます。

(広背筋皮弁法のイラスト・腹直筋皮弁法のイラスト)
(人工乳房と自家移植の比較リスト)

☆ コラム 放射線と乳房再建

放射線照射をすると、皮膚が萎縮@いしゅく@したり、人工乳房に皮膜ができて固く拘縮@こうしゆく@するおそれがあるので、照射前に乳房再建は行わないのがふつうです。放射線治療後は、皮膚のダメージの具合によります。エキスパンダーを使っても皮膚が伸びないこともあるので、自家組織を使うのが原則です。しかし、いろいろな工夫もあるので、乳房再建の専門家に相談してみましょう