腋窩索状症候群、乳房切除後症候群について

腋窩索状症候群(axillary web syndrome、AWS)および乳房切除後症候群(postmastectomy pain syndrome、PMPS)は、乳がん治療後に発生しやすい代表的な合併症です。以下にそれぞれの概要、原因、症状、診断、治療法を含めたまとめて紹介します。

1. 腋窩索状症候群(AWS)

1.1 概要

腋窩索状症候群(AWS)は、乳がん手術後、特にリンパ節郭清(リンパ節の除去手術)を受けた患者に見られる合併症です。別名「リンパ索」や「コード症候群」とも呼ばれ、手術後数日から数週間以内に発症することが多いです。腋窩から腕の内側にかけて硬い「索状」の構造物が現れ、痛みや可動域制限の原因となります。

1.2 原因

AWSの原因は完全には解明されていませんが、リンパ節郭清によってリンパ管や血管、神経が傷つけられたり、リンパ液の流れが滞ったりすることで、腋窩や腕に繊維性のコード状の組織が形成されると考えられています。このコード状組織はリンパ液の流れを妨げるため、痛みや腕の腫れなどの症状を引き起こすことが多いです。

1.3 症状

AWSの主な症状には以下のようなものがあります:

  • 腕や腋窩に張り感や痛みを感じる
  • 腋窩から腕にかけて索状の硬い構造が現れる
  • 肩や腕の可動域が制限される
  • 腕の動かしにくさや筋肉のこわばり感
  • リンパ浮腫の発生(まれに)

これらの症状は、日常生活における動作に支障をきたすことがあり、早期の診断と治療が重要です。

1.4 診断

AWSの診断は、臨床症状と触診を通じて行われます。触診によって索状の硬い組織を確認することで、AWSと判断されます。画像診断(超音波検査やMRI)が補助的に用いられることもありますが、一般的には触診が中心です。

1.5 治療法

AWSの治療法には以下のようなものがあります:

  • 物理療法:リハビリテーションや理学療法士によるマッサージ、ストレッチ運動が効果的です。柔軟性を高め、痛みや可動域制限を緩和することを目的とします。
  • リンパドレナージ:リンパ液の流れを促進し、浮腫や索状の組織を緩和するための手技療法です。
  • 鎮痛剤の使用:痛みが強い場合には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や他の鎮痛剤が処方されることがあります。
  • 筋弛緩剤やボツリヌス毒素:一部の症例では、筋弛緩剤やボツリヌス毒素注射が筋肉の緊張緩和に用いられることもあります。

多くの場合、リハビリテーションと時間の経過によって症状は自然に改善しますが、再発する可能性もあるため、継続的なリハビリが推奨されます。

2. 乳房切除後症候群(PMPS)

2.1 概要

乳房切除後症候群(PMPS)は、乳房切除術やリンパ節郭清を受けた患者が手術後に経験する慢性の痛み症候群です。手術後3か月以上続く痛みをPMPSと定義し、患者のQOL(生活の質)に大きな影響を与えるため、重要な問題とされています。特に腋窩神経、肋間腕神経、または長胸神経などの神経が損傷されることが原因で発症することが多いです。

2.2 原因

PMPSの原因としては、神経損傷やリンパ浮腫、組織の炎症、瘢痕組織の形成などが考えられています。乳房やリンパ節の除去に伴い、神経が損傷されることによって慢性的な痛みが発生することが多く、特に腋窩神経や肋間神経が損傷されやすいです。

2.3 症状

PMPSの症状には以下のようなものが含まれます:

  • 乳房切除部や腋窩、上腕にかけての持続的な痛みや刺すような痛み
  • 触覚過敏(軽く触れただけでも痛みを感じる)
  • しびれや灼熱感、筋肉のひきつり感
  • 腕の運動や日常動作における困難

これらの症状は、患者の精神的な負担にもつながるため、早期の治療が望まれます。

2.4 診断

PMPSの診断は、患者の症状や既往歴、触診によって行われます。神経の損傷の有無を確認するため、神経学的検査や画像診断(MRI、超音波など)が行われることもあります。

2.5 治療法

PMPSの治療には、以下のような方法が取られます:

  • 薬物療法:神経痛を軽減するために、抗うつ薬や抗けいれん薬が処方されることがあります。また、鎮痛剤(NSAIDs、オピオイドなど)も痛みの管理に役立つ場合があります。
  • 理学療法:リハビリテーションやストレッチ、マッサージが効果的です。筋肉の緊張を和らげ、可動域を維持することが重要です。
  • 神経ブロック療法:痛みが強い場合には、神経ブロック注射(局所麻酔薬を注入する方法)が行われることがあります。これにより、一時的に痛みを緩和する効果が期待されます。
  • 心理的支援:PMPSによって生活の質が低下することがあるため、心理的なサポートや痛みの自己管理教育が推奨されます。疼痛管理の一環として、心理療法や認知行動療法が行われることもあります。
  • 外科的治療:痛みが持続し、他の治療法が効果を示さない場合には、神経の圧迫を除去する外科的手術が考慮されることもありますが、これは慎重に検討されるべきです。

まとめ

腋窩索状症候群と乳房切除後症候群はどちらも乳がん治療後の合併症で、患者の生活に大きな影響を与える可能性があります。AWSはリハビリやリンパドレナージなどの物理療法で改善することが多く、PMPSでは薬物療法や神経ブロック、心理的支援など、複合的なアプローチが必要とされます。どちらの症候群も早期の診断と適切な治療が、症状の改善や生活の質の向上に寄与するため、患者と医療従事者が協力して管理していくことが大切です。