手術前の薬物療法
がんの性質で使い分け
手術や放射線療法が、がんの部位だけを治療する局所療法であるのに対し、薬物療法は血液に乗って全身に作用する全身療法です。
そこで、乳がんでは、
①がんの病巣を小さくして、乳房温存療法など手術に持ち込むための「術前療法」
②乳がん手術後、再発を防ぐために行われる「術後補助療法」
③転移、再発などで手術できないがんに対する治療
という3つの目的で薬物療法が行われます。また、乳がんは薬物療法の効果が高く、ホルモン療法、抗がん剤療法、がんの特性に的をしぼって開発された分子標的治療薬と、3種類の薬物が使われています。
こうした薬を、それぞれのがんの特性ごとに使い分けて、治療を行います。
高い術前療法の効果
術前療法には、主として抗がん剤が使われます。ふつうは術後に再発予防のために使われるのと同じ抗がん剤を使います。
乳がんの場合、手術後には、ほとんどの人が再発予防のために術後補助療法を受けます。しかし、術後補助療法は、再発の「予防」なので、実際にその抗がん剤が効いて再発がないのか、あるいは薬とは関係なく再発がないのか、ほんとうのところはよくわかりません。しかし、術前化学療法は、がんの縮小というはっきりした効果が見えるので、抗がん剤の効果がわかるというのは大きなメリットです。
術前化学療法の効果は、かなり高率です。80%以上の人でがんの病巣が小さくなり(面積で50%以下)、臨床的に奏功したと表現されます。それどころか、がんが顕微鏡的にも完全に消失してしまう人も少なからずいるのです。HER2陽性の人に抗がん剤と分子標的治療薬・トラスツズマブを併用した術前化学療法を用いると、50%前後の方でがんが完全に消失します。
術前化学療法によってがんが消失した場合には、再発の危険も、がんが消えなかった人にくらべて大幅に低くなります。特にトリプルネガティブ(ホルモン受容体、HER2受容体がともに陰性)の人の場合、この関係が明瞭になります。
最近は、閉経後でホルモン療法の効果がある人には、術前にホルモン療法が行われるケースもありますが、抗がん剤ほどきちんとしたデータはまだありません。
(捨てカット)