センチネルリンパ節生検

乳がんにおけるセンチネルリンパ節生検 (SLNB) 概要

センチネルリンパ節生検(Sentinel Lymph Node Biopsy, SLNB)は、乳がんの外科的治療において、がんがリンパ節に転移しているかどうかを評価するための重要な手技です。センチネルリンパ節(SLN)は、がん細胞が最初に到達する可能性が高いリンパ節であり、通常、乳がん手術の一環として行われます。この手技は、リンパ節郭清(Axillary Lymph Node Dissection, ALND)の代替として登場し、侵襲が少ない方法で、術後の合併症を軽減するために広く利用されています。以下では、センチネルリンパ節生検の手順、利点、欠点、適応症、ならびに関連する最新の知見について詳述します。

1. センチネルリンパ節生検の原理

SLNBは、腫瘍からリンパ系に流れる最初のリンパ節である「センチネルリンパ節」を特定し、生検する手技です。SLNががん細胞に侵されていない場合、他のリンパ節にも転移している可能性は低く、広範なリンパ節郭清を避けられると考えられています。このため、乳がん手術において、リンパ節転移の有無を迅速かつ正確に判断する手段として重要です。

センチネルリンパ節の同定方法

SLNBでは、通常、放射性コロイドと青色染料の2種類が使用されます。手術前に放射性コロイドを注射し、これにより放射線を発するセンチネルリンパ節を検出します。同時に、青色染料も使用されることが多く、リンパ系を通じてSLNが青く染まるため、視覚的に確認できます。これにより、最も早くがん細胞が到達するリンパ節(すなわちセンチネルリンパ節)を外科的に特定し、生検することが可能になります。

2. SLNBの手順

SLNBは乳がん手術中に行われることが一般的です。手技は以下の手順で行われます。

  1. 色素および放射性トレーサーの注入: 手術の数時間前または直前に、腫瘍周囲または乳房皮膚内に放射性同位元素(通常はテクネチウム99m)を含むトレーサーが注入されます。また、青色染料(インジゴカルミンやメチレンブルー)も同時に使用される場合があります。
  2. センチネルリンパ節の特定: トレーサーがリンパ管を通って最初に到達するリンパ節(センチネルリンパ節)を、放射線検出器を用いて探します。また、青色染料がリンパ節に移動すると、リンパ節が青く染まり、視覚的に確認できます。
  3. リンパ節の摘出: 特定されたセンチネルリンパ節を数個摘出し、病理検査に送ります。これにより、がん細胞がリンパ節に存在するかどうかが評価されます。
  4. 病理検査: 摘出されたセンチネルリンパ節は、迅速病理診断(術中迅速診断)や最終的な病理組織診断により検査されます。迅速診断で転移が認められない場合、手術は終了し、追加のリンパ節郭清は行わないのが一般的です。一方で、転移が認められた場合には、追加のリンパ節郭清を行うかどうかが判断されます。

3. SLNBの利点と欠点

利点
  1. 低侵襲性: SLNBは、従来のリンパ節郭清よりもはるかに侵襲が少なく、術後の合併症リスクが低いです。具体的には、リンパ浮腫(腕や胸にリンパ液が溜まる症状)や神経損傷のリスクが低減されます。
  2. 精度の向上: SLNBは、がんのリンパ節転移の評価において非常に高い精度を持っており、不要なリンパ節郭清を避けることができます。SLNが陰性の場合、他のリンパ節にもがんが広がっている可能性は極めて低いです。
  3. 術後回復の短縮: SLNBは従来のリンパ節郭清と比較して手術時間が短く、入院期間も短縮されることが多いです。また、術後の回復も早いため、患者の生活の質が向上します。
欠点
  1. 偽陰性の可能性: SLNBは非常に高い精度を持っていますが、100%ではありません。稀に、センチネルリンパ節に転移がないにもかかわらず、他のリンパ節に転移がある場合があります。これを「偽陰性」と呼びます。
  2. 特定が難しい場合: 一部の患者では、放射性コロイドや青色染料の効果が十分に発揮されず、センチネルリンパ節を正確に特定できない場合があります。特に、腫瘍が大きい場合や以前に放射線治療を受けたことがある患者では、リンパ系が変化している可能性があり、SLNBの成功率が低下することがあります。
  3. 手技に依存する: SLNBの成功率や正確性は、施術者の経験や技術に大きく依存します。経験豊富な外科医によって行われる場合、成功率は高いですが、経験の少ない医師が行う場合、精度が低下する可能性があります。

4. 適応症と禁忌

適応症

SLNBは、早期乳がん患者においてリンパ節転移の評価を行うための標準的な手技として確立されています。特に以下のような患者に適応されます。

  • 臨床的にリンパ節が陰性の患者: 触診や画像検査でリンパ節転移が疑われない患者に対して行われます。
  • 初期段階の乳がん患者: 特にステージIやステージIIの乳がん患者に対して適用されます。
  • 乳房温存手術を受ける患者: 乳房温存手術の際には、センチネルリンパ節生検が広く行われています。
禁忌

一方で、SLNBが適さない場合も存在します。以下の条件に該当する患者には、リンパ節郭清が推奨される場合があります。

  • 明らかなリンパ節転移がある患者: 触診や画像診断でリンパ節転移が明らかな場合、SLNBは適用されません。
  • 炎症性乳がん患者: 炎症性乳がんは進行が速く、広範なリンパ節転移を伴うことが多いため、SLNBの代わりにリンパ節郭清が行われます。
  • 前治療歴のある患者: 特に、以前に放射線治療や外科的治療を受けた部位に対しては、SLNBの効果が十分に得られないことがあります。

5. SLNBの最新動向と研究

近年、SLNBの適応範囲や技術向上に関する研究が進展しています。例えば、ACOSOG Z0011試験は、SLNBのみでリンパ節転移が少数である場合、追加のリンパ節郭清を行わずに経過観察を行っても、治療成績に差がないことを示しました。これにより、SLNBがより広範な乳がん患者に対して適用される可能性が広がりました。

また、新しい技術として、超音波を用いたSLNBの補助診断や、分子診断技術による迅速な病理診断が導入されつつあります。これらの進展により、SLNBの精度がさらに向上し、患者の負担が一層軽減されることが期待されています。

結論

センチネルリンパ節生検は、乳がんのリンパ節転移を評価するための標準的な手技として確立されており、その低侵襲性と高精度な診断能力により、多くの患者にとって大きな利益をもたらしています。適切な患者に対して行われることで、手術後の合併症リスクを最小限に抑え、生活の質の向上に寄与する重要な手法です。今後も技術の進歩とともに、さらに効果的で安全な方法が確立されていくことが期待されます。

乳がんにおけるセンチネルリンパ節生検(SLNB)は、腋窩リンパ節の状態を評価するために行われる標準的な手術手技であり、これにより腋窩リンパ節郭清(ALND)の必要性を減少させ、患者の生活の質を向上させることが目的です。SLNBは、腋窩リンパ節への転移が最初に起こる「センチネル(番人)」となるリンパ節を特定し、そのリンパ節のみを摘出・病理診断する手法です。ここでは、SLNBに関する最新の動向と研究を、技術的進歩や臨床的な適応、予後予測、合併症リスク、関連する臨床試験を中心にまとめます。
1. センチネルリンパ節生検の技術的進歩
SLNBの標準的な方法は、青色染料および放射性コロイドを使用してセンチネルリンパ節を可視化し、これに基づいて外科的に摘出するものです。しかし、近年の技術的進歩により、これに代わる新しい技術が開発されています。
1.1 蛍光イメージング技術
蛍光色素(インドシアニングリーン:ICG)を用いた蛍光イメージング技術が注目されています。この技術は、従来の放射性物質や青色染料と比較して安全性が高く、またリアルタイムでの視覚的フィードバックが得られるため、手術の精度を向上させます。さらに、放射性物質を使用しないため、放射線防護の問題を回避できます。近年の研究では、蛍光イメージングは特に早期乳がん患者に対して効果的であり、高いセンチネルリンパ節の検出率と正確性が報告されています。
1.2 超音波ガイド下センチネルリンパ節生検
術前に超音波を用いて腋窩リンパ節を詳細に評価し、疑わしいリンパ節を標的にして生検を行う「超音波ガイド下SLNB」も注目されています。この方法は特に、腫瘍が小さくリンパ節転移のリスクが低い患者に適しています。超音波の進歩により、リンパ節の特徴をより詳細に評価できるため、腋窩リンパ節転移の有無をより精度高く判断できます。
1.3 磁性マーカーを用いたSLNB
放射性物質に代わる技術として、磁性マーカーを用いたセンチネルリンパ節の検出技術も開発されています。特に、磁性ナノ粒子を注射してその分布を検出する技術は、放射線被曝を伴わないため、施設や患者にとって負担が軽減されます。英国を中心とした欧州のいくつかの施設では、磁性マーカーを用いたSLNBが臨床で広く使用され始めており、今後さらなる普及が期待されています。
2. センチネルリンパ節生検の臨床的適応と変化
SLNBは、リンパ節転移のリスクが低い早期乳がん患者に対して標準治療として確立されていますが、その適応範囲は近年拡大しています。
2.1 腋窩リンパ節転移陽性患者への適応
以前は、センチネルリンパ節に転移が確認された場合には、腋窩リンパ節郭清が推奨されていました。しかし、ACOSOG Z0011試験やAMAROS試験の結果により、少数の転移があったとしても、追加のALNDを省略しても局所制御および生存率に大きな差はないことが示されました。これにより、リンパ節転移陽性の患者でも、特定の条件下ではSLNBのみで治療を完結させることが可能となっています。
2.2 化学療法後のSLNB
新たな研究では、術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy, NAC)を受けた患者においても、SLNBが有用であることが示されています。従来、NAC後の患者では、腋窩リンパ節の評価のためにALNDが行われていましたが、近年の研究は、NAC後に腫瘍の縮小が確認された患者においてもSLNBが高い精度で腋窩の状態を評価できることを示しています。特に、腋窩リンパ節転移が術前に存在したが、NAC後に縮小した患者において、SLNBによって追加のALNDを回避することが可能です。
3. 予後予測とSLNBの役割
SLNBの結果は、患者の予後を予測するために重要な役割を果たします。センチネルリンパ節に転移がない場合、追加の治療は不要となることが多く、腋窩リンパ節に転移がある場合には、追加の治療が検討されます。
3.1 微小転移と孤立細胞
SLNBで検出される転移の大きさは、予後に影響を与えます。微小転移(2mm以下の転移)や孤立細胞(0.2mm以下の集簇)は、従来のマクロ転移(2mm以上の転移)とは異なる予後を持つことが分かっており、これに基づいて治療方針が変更されることがあります。最近の研究では、微小転移や孤立細胞のみが検出された場合、ALNDや追加の放射線治療を省略しても生存率に影響がないことが示されています。
3.2 腋窩放射線治療の併用
SLNBで転移が確認された場合、ALNDを回避しつつ、腋窩放射線治療を併用するアプローチが試みられています。AMAROS試験では、SLNB陽性患者に対してALNDの代わりに腋窩放射線を行った場合でも、局所再発率や全生存率に大きな差はなく、放射線治療によって手術の侵襲を減らすことができる可能性が示唆されています。
4. 合併症リスクの低減
SLNBはALNDに比べて侵襲が少なく、術後の合併症リスクが低いことが知られています。特に、術後のリンパ浮腫や腕の運動制限といった合併症は、ALNDに比べて大幅に減少します。しかし、SLNBにおいても一定の合併症リスクは存在します。
4.1 リンパ浮腫の発生リスク
SLNBでも少数の患者にはリンパ浮腫が発生しますが、そのリスクはALNDに比べて非常に低く抑えられています。近年の研究では、SLNB後のリンパ浮腫発生率は約5~7%と報告されており、ALNDの20~30%に比べると有意に低いです。リンパ浮腫のリスクをさらに低減するために、患者教育や予防的な運動療法が推奨されています。
4.2 感覚障害や疼痛
SLNB後の感覚障害や術後疼痛もALNDよりは軽度ですが、一部の患者では長期的な感覚異常が残ることがあります。これに対して、術後のリハビリテーションや疼痛管理が重要です。
5. 関連する臨床試験と今後の展望
乳がんにおけるSLNBの役割をさらに確立するため、いくつかの臨床試験が進行中です。これにより、より少ない侵襲で高精度な腋窩リンパ節評価を可能にし、患者の生活の質を向上させることが期待されています。
5.1 Z0011試験の影響
前述の通り、Z0011試験はSLNB陽性患者に対してALNDを省略できる条件を明らかにしました。この試験の結果は、乳がん治療に大きな影響を与え、国際的なガイドラインの改訂にも寄与しました。この試験に基づいて、リンパ節転移が少数であればSLNBのみで治療が完了するケースが増加しています。
5.2 新たなバイオマーカーの研究
SLNBの精度をさらに向上させるために、センチネルリンパ節の病理診断に新たなバイオマーカーを導入する研究も進行中です。遺伝子発現解析や免疫組織化学的な手法を用いて、微小転移や孤立細胞の存在をより正確に検出し、予後予測や治療方針決定に役立てる試みが進められています。
まとめ
乳がん治療におけるセンチネルリンパ節生検は、技術的な進歩や新しい治療戦略の導入により、従来よりも安全で効果的な手法として確立されつつあります。特に、腋窩リンパ節郭清を回避しつつ正確なリンパ節評価を行うための技術が進展しており、患者の生活の質を向上させることが期待されます。今後の研究により、さらに侵襲が少なく、より精度の高いSLNBが可能となり、乳がん患者の予後改善に貢献していくでしょう。

以上、2024年10月

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変わる腋窩リンパ節郭清の意味

なぜリンパ節郭清が必要か

2000年頃まで、乳がん手術では、脇の下のリンパ節を郭清するのが標準的な治療でした。
乳がんの場合、病巣からこぼれ落ちたがん細胞は、最初に脇の下の腋窩@えきか@リンパ節にたどりつきます。腕のケガや虫刺されで炎症が起きると、脇の下のグリグリがはれることがあります。それがリンパ節で、病原菌を駆逐する免疫の重要拠点の一つです。がん細胞もリンパ節で処理されるのですが、その能力を上回ると、がん細胞にリンパ節が占拠されて「リンパ節転移」になるのです。
そこで、乳がん手術では、①リンパ節転移の有無と、転移したリンパ節の数を調べる②再発予防、という2つの意味でリンパ節郭清が行われてきました。
しかし、リンパ節は脂肪にくるまれるように存在しているので、それだけを取ろうとすると確実には取りきれません。そこで、リンパ節を取りきるために、リンパ節が含まれる脂肪組織をすべて切除します。これが、リンパ節郭清です。
その際、その部位を通る細かい神経を切断するため、違和感や痛みの原因になり、またリンパの流れが阻害されてリンパ浮腫を起こすリスクも高くなります。その結果腕が太くなり、ひどくなると腕がパンパンにむくんで動かしにくい、感覚が低下するなど、さまざまな後遺症に苦しめられることになります。リンパ節は細菌やウイルスなどの感染を防御しているところなので、それを郭清すると、手術したほうの腕や手にケガなどをしないように気をつけなければなりません。
リンパ浮腫は、乳がん手術後に起こる後遺症の中で患者さんをもっとも悩ませるものの一つです。

リンパ節を郭清しても転移は防げない

手術前から、画像診断などであきらかに腋窩リンパ節に転移があった場合は、治療の意味でリンパ節の郭清が必要です。
ところが、時代とともに早期がんが増え、腋窩リンパ節を郭清して調べても転移が見られない人が増えてきました。こうした人は無駄にリンパ節郭清を行い、合併症のリスクを背負ったことになります。
一方、リンパ節転移に対する考え方も変わってきました。乳房でつくられたリンパ液の90%程度は、腋窩リンパ節に流れ込みます。以前は、乳がんは一番近い腋窩リンパ節から順番に遠くのリンパ節に転移して、それから血管に入り全身に転移すると考えられていました。したがって、腋窩リンパ節を郭清しておけば、全身への転移を予防できると考えられていたのです。
ところが、実際は、がん細胞は近くのリンパ節から順番に転移して血管に入るのではなく、乳管の外に浸潤したとたんに、リンパ管にも血管にも入って全身に散らばるのだと考えられるようになりました。それが、乳がんが全身病といわれるゆえんです。そうであれば、腋窩リンパ節を切除しても、全身への転移を防ぐことはできないわけです。実際に、腋窩リンパ節を郭清してもしなくても、遠隔転移や生存率に差がないことが統計であきらかになってきました。
そこで登場したのが、センチネルリンパ節生検でした。

※乳房周囲のリンパ節

無駄なリンパ節郭清を防ぐセンチネルリンパ節生検

がんが最初に流れ着くリンパ節

手術前の検査で、脇の下のリンパ節(腋窩リンパ節)に転移がない、あるいはなさそうに思われる人にまでリンパ節郭清を行う必要があるのだろうかという疑問が生じました。リンパ節転移のない人は、ないことを証明するためだけに後遺症の大きいリンパ節郭清をすることになってしまうからです。
こうした疑問が出たとき、注目されたのがセンチネルリンパ節でした。センチネルリンパ節は、「見張りリンパ節」とか「前哨@ぜんしよう@リンパ節」といわれ、病巣からこぼれ落ちたがん細胞が一番最初に流れ着くリンパ節です。
このリンパ節に転移がなければ、ほかのリンパ節にも転移がない、したがって腋窩リンパ節の郭清は必要ないと考えるのが、センチネルリンパ節生検の考え方です。具体的には手術中にセンチネルリンパ節を見つけて取り出し、転移の有無を調べます。
センチネルリンパ節生検が始まったのは、海外でも1990年代の中頃からのことですが、実際にリンパ節再発が少なく、急速に世界中に普及していきました。現在では科学的な臨床試験の結果でも安全性が証明され、センチネルリンパ節生検は標準的手術と理解されています。このためリンパ節の転移を確認せずに、リンパ節郭清を行うことは限られた場合のみになりました。

色素とアイソトープで

センチネルリンパ節を見つけるには、アイソトープ(放射性同位元素)を使う方法と青い色素を使う方法の併用が標準的です。さらに第三の方法としてICG蛍光法という方法もあります。
具体的な方法ですが、まずアイソトープと色素を乳がんの近くや、乳輪部に注射します。すると、リンパの流れに乗ってアイソトープと色素が移動します。そこで、まず皮膚にガンマプローブという器具をあてて、アイソトープから放出される放射線を追跡します。ガンマプローブが反応した部位がアイソトープが最初に流れ着いた先、つまりセンチネルリンパ節です。ここに、皮膚の上から印をつけておきます。
その印の上を2~3センチ切開して、色素で青く染まったリンパ節を取り出します。センチネルリンパ節は通常1~3個程度同定され、これを切除します。ときには、腋窩以外のリンパ節にあることもあります。これを病理検査で調べ、転移の有無を見ます。転移がなければ、腋窩リンパ節郭清は不要、転移があれば腋窩リンパ節の郭清を行います。ただこの場合の郭清の必要性が現在の論点になっています。

議論を呼んだACOSOG- Z0011試験について

通称、Z-11試験と呼ばれているこの試験結果は2010年6月、アメリカ臨床腫瘍学会で発表されました。結果の概要はセンチネルリンパ゚節生検で1~2個の転移を認めた患者さん(乳房温存手術+放射線照射例)のリンパ節郭清を行っても再発率、生存率の改善に貢献しないというものでした。
しかしながらこの試験は1900例の症例登録と500例の再発が見込まれて開始されましたが、症例が891例しか集まらず、また再発も94例にとどまり、途中で打ち切りになりました。
試験自体の欠陥は誰もが認めるところですが、試験の追試が難しいためこの結果の解釈が論点となっています。リンパ節の微小転移の場合の郭清省略は比較的受け入れられていますが、明らかなリンパ転移があった場合、郭清を本当に省略していいのかということが論点になっています。
欧米の専門家の間でもこの試験結果を疑問視する声が強く、ただちに腋窩郭清を省略できるという流れにはならないようです。腋窩リンパ節転移があった患者さんの安全と後遺症にかかわる問題のため、今後動向が注目されています。

(センチネルリンパ節生検の方法)