浸潤性小葉がん(乳がん)の診断と治療
1. 浸潤性小葉がん(乳がん)とは
浸潤性小葉がんは、乳がんの一種で、乳房の乳腺小葉に発生し、乳腺外の組織にも浸潤するがんです。通常、乳管に発生する浸潤性乳管がんと比較して発見が難しい特徴があります。浸潤性小葉がんはゆっくりと進行する傾向がある一方、乳房の他の部位や反対側の乳房、さらには他の臓器にも転移する可能性があるため、早期の発見と治療が重要です。
2. 浸潤性小葉がんの診断方法
2.1 画像検査
浸潤性小葉がんは、乳腺の中で比較的広範囲に広がりやすく、マンモグラフィや超音波検査で診断が難しい場合があります。そのため、以下のような画像診断が使用されます。
- マンモグラフィ:乳腺の構造や異常な陰影を確認しますが、浸潤性小葉がんでは腫瘤がはっきりと現れないことが多いです。
- 超音波検査(エコー):超音波を用いて乳腺内の異常を調べます。マンモグラフィと併用して行われることが一般的です。
- MRI(磁気共鳴画像):乳腺内の異常を立体的に評価するため、特に浸潤性小葉がんの診断には有効です。腫瘤の広がりや大きさ、形状を把握することができ、手術の計画にも役立ちます。
2.2 生検
画像診断で異常が確認された場合、確定診断のために生検が行われます。生検では、針を使って腫瘤や異常組織の一部を採取し、病理検査によってがんの有無を確認します。主に以下の方法があります。
- 細針吸引細胞診:細い針で組織を吸引し、顕微鏡で細胞を確認します。比較的侵襲性が低い方法ですが、細胞のみを採取するため、がんの種類や広がりを把握するのには限界があります。
- コア針生検:より太い針を使って組織の一部を採取し、詳しい病理検査を行います。浸潤性小葉がんの診断に有用で、がんの種類やホルモン受容体の有無なども調べることができます。
2.3 病理診断
病理診断では、採取された組織を顕微鏡で観察し、浸潤性小葉がんの特徴である「シングルファイルパターン」と呼ばれる細胞の配列などを確認します。また、ホルモン受容体(エストロゲン受容体やプロゲステロン受容体)の有無やHER2の発現状況を調べ、治療方針の決定に役立てます。
3. 浸潤性小葉がんの治療法
浸潤性小葉がんの治療は、がんの進行度やホルモン受容体の有無、患者の年齢や体力などに応じて個別に決定されます。主な治療法として手術、放射線療法、薬物療法が挙げられます。
3.1 手術療法
浸潤性小葉がんの治療では、まず手術によって腫瘍の摘出が試みられます。以下のような手術法が選択されます。
- 乳房温存手術:腫瘍とその周囲の組織を取り除き、乳房を残す手術です。がんが限局している場合に適応されることが多く、手術後には放射線療法が併用されることが一般的です。
- 乳房全摘術:乳房全体を取り除く手術です。がんが広範囲にわたる場合や、再発リスクが高い場合に適応されます。乳房再建手術を行うことも可能です。
また、浸潤性小葉がんでは、がんがリンパ節や他の部位に転移するリスクがあるため、センチネルリンパ節生検や腋窩リンパ節郭清が行われることもあります。
3.2 放射線療法
放射線療法は、手術後の再発リスクを下げるために行われます。乳房温存手術後に行うことが多く、がんが広範囲にわたっていた場合やリンパ節に転移がある場合には、放射線療法が推奨されます。放射線はがん細胞を破壊する効果があり、再発のリスクを低減するために重要な役割を果たします。
3.3 薬物療法
浸潤性小葉がんに対する薬物療法は、がんの進行度やホルモン受容体、HER2の発現状況に基づいて選択されます。
- ホルモン療法:ホルモン受容体が陽性の場合、エストロゲンの働きを抑えるタモキシフェンやアロマターゼ阻害薬が使用されます。ホルモン療法は再発予防のために長期的に使用されることが多く、閉経前と閉経後で薬剤が異なります。
- 化学療法:がんが進行している場合や、ホルモン受容体が陰性の場合には化学療法が行われることがあります。主に抗がん剤を使い、がん細胞を殺すことで治療を行います。
- 分子標的療法:HER2が陽性の浸潤性小葉がんに対しては、トラスツズマブ(ハーセプチン)などの分子標的薬が使用されます。これによりHER2を抑制し、がんの進行を抑えることが期待されます。
3.4 補助療法
再発リスクを低減するため、上記の治療法に加えて補助療法が行われることがあります。これには、患者の体力維持や生活の質の向上を目的としたリハビリテーション、心理サポート、栄養指導などが含まれます。
4. 浸潤性小葉がんの治療後の経過観察
治療が完了した後も、定期的な経過観察が必要です。浸潤性小葉がんは対側乳房や他の臓器に転移するリスクがあるため、以下のような経過観察が行われます。
- 定期検査:乳房やリンパ節、他の臓器の異常を確認するために定期的な画像検査(マンモグラフィ、MRI、超音波)が行われます。
- 血液検査:腫瘍マーカーや肝機能、腎機能などを確認するために血液検査が行われます。
- 患者教育:自宅での自己検診方法や再発の兆候について教育し、異常があれば早期に医師に相談するよう指導します。
5. 浸潤性小葉がん治療の課題と新しい治療法の開発
浸潤性小葉がんの診断や治療には課題も存在します。早期発見が難しく、治療においても乳房全体や他の部位への転移リスクがあるため、さらなる治療法の開発が求められています。特に、以下のような新しい治療法が研究されており、将来的な治療選択肢の拡大が期待されています。
- 免疫療法:患者自身の免疫機能を利用してがん細胞を攻撃する方法で、化学療法や放射線療法と組み合わせて治療効果を高める研究が進められています。
- 遺伝子治療:がんの発生メカニズムに関連する遺伝子をターゲットにした治療法で、浸潤性小葉がんの特異的な遺伝子変異に対する治療法の開発が進められています。
浸潤性小葉がんの診断と治療は、がんの特徴に応じた個別化治療が重要です。医師との綿密な連携を保ち、定期的な検査や経過観察を続けることで、治療効果を高めることが期待されます。また、新しい治療法の研究も進んでおり、将来的にはより効果的かつ負担の少ない治療が提供されることが期待されています。