乳房の手術についての解説文書(葉状腫瘍、検査目的の生検など)
乳房手術についての解説文書 (葉状腫瘍など)
虎の門病院 ブレストセンター 2020年10月10日
本文は手術承諾書を補足する内容として、虎の門病院で手術を受けられる方にお渡ししている書類です
乳房葉状腫瘍についてはこちらをご参照ください
(1)病名 葉状腫瘍、良悪性の診断が困難な乳房腫瘍など
(なお正式な病名は手術承諾書に記載します)
(2)本診療行為の必要性
乳房腫瘍・腫瘤を切除し、確実な局所制御(乳房内に再発が起きないようする)と診断が得られるようにします。外科的な切除手術は局所制御と診断のために最も優れた方法と考えられています。なお手術以外の局所制御の方法としてラジオ波による焼灼、凍結療法などがあり、手術以外の方法と手術を(直接科学的な方法で)比較したデータはありませんが、これまでの臨床から得られた知見から、手術ほど十分な局所制御が得られないと考えられています。また他の侵襲の大きな手術と違い、患者さんの体力的な観点から手術が不可能ということはまずないと思われます。診断に関しては針生検、マンモトームを実施した上で診断が困難な場合に手術による切除生検が行われます。
(3)無施行の場合の予後(葉状腫瘍について)
葉状腫瘍で治療をしなかった場合、局所で腫瘍が増大し、皮膚を破って潰瘍が形成されていきます。悪性病状腫瘍の場合は遠隔臓器(肺、肝、骨、脳など)に転移し、最終的に死に至ります。
(4) 診療行為の選択肢、推奨する選択肢
選択肢についてはこの解説書の本文をご参照ください。(推奨する選択肢は手術承諾書に記載します)
(5) 主な乳房手術の術式
Ⓐ腫瘤切除術 Ⓑ乳房切除術(全摘) Ⓒ乳房切除術(全摘)+再建術 Ⓓ皮下乳腺全摘術(乳頭・乳輪温存)+再建術
(6) 手術の重篤なリスク、その他のリスク、その頻度について
乳房の手術に重篤なリスクは極めて少ないと一般的に考えられています。全身麻酔に伴う術中の予想外のトラブル、薬剤性のショック、術後出血に伴うショックなどが生命に関わる重篤なリスクとして想定されますがこれらの頻度はすべてを含め0.1%以下と思われます。エキスパンダー(組織拡張器)を挿入する乳房再建手術の場合は感染によりエキスパンダーの抜去を余儀なくされるようなリスクが1-2%程度あります。その他、創部皮弁の血流障害(皮弁壊死)や、最終的な結果に影響を与えないが、退院が遅れる等の影響のあるものとして、出血、感染などのリスクが数%あります。詳細は次頁以降で説明します。
(7) 緊急時の対応・処置
担当医が緊急の合併症と判断した場合、事態の改善にむけて全力を尽くします。
(8) 説明内容の理解と自由意思による同意承諾およびその取り消しについて
説明を十分に理解した上で、手術についての同意をご自分の意思で決めていただきます。いったん同意をされた場合でも、いつでも撤回することができます。やめる場合は、その旨を担当者へ連絡してください。この手術に同意されるかどうかは、患者さんの意思が尊重されます。同意されない場合でも、病院の対応において不利益を受けることはありません。現在の患者さんの病状や治療方針について、他の専門医の意見を聞くことも可能です(セカンドオピニオン)ので、その際はご相談ください。必要な資料をご提供いたします。
(9) 臨床データ等の学術利用について
当院において手術を受けられた患者さんの治療成績等が、学会発表や論文発表になどに利用されることになります。これらは医学・医療・教育の発展を目的とするものであるため、御理解、御協力をお願い致します。なおこれらの発表には、患者さんの個人が特定されるような内容はありません。なお個人情報に配慮した上で個人の経過に焦点を当てた発表(症例報告)等を行う場合は、別途ご本人に説明し、同意をいただくことになります。
(10)当院に手術に関する問い合わせ先
虎の門病院 乳腺内分泌外科 電話番号:03-3588-1111(代表) 担当医(まず50番共通外来受付にご連絡ください)
乳房の手術についての解説
乳房の手術には腫瘤を部分的に切除する腫瘤切除術と乳房を全摘する乳房切除手術があります。
Ⓐ乳房腫瘤切除術
腫瘤を切除する術式で、余程巨大な腫瘤でなければその後のボディーイメージが変わることはありません。可能であれば乳輪や乳房下溝線に沿って切開し、傷を目立たなくします。
乳房の切除の範囲
線維腺腫などの良性腫瘍や、外科生検で診断目的の場合は腫瘤のみを切除します。葉状腫瘍の場合は1㎝の安全域をつけてやや広めに切除します。切除範囲については病状とともに、患者さん側の希望も重要ですから、希望事項はあらかじめ担当医にお伝えください。
Ⓑ乳房切除術 Ⓒ乳房切除術+再建 Ⓓ皮下乳腺全摘術(乳頭・乳輪温存)+再建
乳房を全摘した方が望ましいと判断された場合(巨大な葉状腫瘍など)、乳房切除手術が行われます。この場合は切除のみが行われる場合と、同時に再建手術が行われる場合があります。同時に再建する場合は組織拡張器(エキスパンダー)が多くの場合用いられますが、自家組織(筋肉+脂肪組織)を用いて同時再建を行う場合もあります。
乳房の手術の合併症について
①出血
手術は出血を伴います。多量出血することはほぼありませんが、全身麻酔中のなにかあった時に備えて、念のため手術を受ける患者さん全員に輸血同意書をいただいています。手術中は、麻酔により血圧は低く保たれています。術後、血圧がいつもの値に戻った際や、動いた際に、手術中には止血されていた部分から再出血することがあります(後出血)。圧迫による保存的加療を第一に行いますが、場合によっては、再度手術室や外来にて血腫除去・洗浄・止血術を行うことがあり、当院では年間約500件の乳がん手術を含めた乳房の手術を行ったうち、1~2件生じています。
②感染
創部を十分に消毒して清潔操作で手術を行い、術中・術後に予防的に抗生剤を投与しますが、それでも術後感染を起こすことがあります。術後に創部に痛みを伴う発赤や熱感・発熱があらわれた場合には、抗生剤治療が必要になります。エキスパンダー再建している場合、感染のコントロールが不十分であれば一時的にエキスパンダーを抜去し、感染コントロールできた後に再度エキスパンダー挿入術を行う場合もあります。退院後も、退院前と変化がないかを創部をよく確認してください。
③ 感覚障害
皮下の細かい神経を切断することによって、創部周囲の感覚は鈍くなります(感覚鈍麻)。乳房の腫瘤切除ではあまり問題にはなりません。
④ 熱傷
手術の際には電気メスを使用します。電気メスの熱によって、皮膚の裏側からやけどをきたすことがあります。かなり軽微な熱傷ではありますが、程度によっては術後に軟膏をぬって対応することがあります。
⑤ 皮弁壊死、創縁壊死
皮膚の血流不良があると、皮膚の一部が壊死してしまい、傷の治りが悪くなることがあります。軽微であればほとんどがそのまま、かさぶたとなり(痂皮化)治癒しますが、広範囲の場合は壊死した部分を切除して再縫合する必要があります。当院では年間約500件の乳がんを含めた乳房手術を行ったうち、数年に1件生じています。乳房の腫瘤切除では起きないと考えて問題ありません。
⑥ 液貯留
手術部位に、術後より浸出液・リンパ液がたまります。
乳房の腫瘤切除を行った場合
ドレーンは基本的には入れませんが、手術部位に浸出液やリンパ液がたまることがあります。液貯留した場合は、外来で針をさして、たまった液を抜きます。術後経過とともに、浸出液やリンパ液は産生されなくなるため、徐々に液貯留しなくなってきます。
乳房全摘術場合
前胸部にドレーンといわれる管をいれ、たまる浸出液やリンパ液を体外に出します。排液量が減少した後(術後2-4日)、管を抜きますが、その後も浸出液やリンパ液がたまることがあります。