非浸潤性乳がんの自然経過
非浸潤性乳がん(DCIS:ductal carcinoma in situ)は、乳管内にとどまっており、他の組織や臓器へは広がっていないがんです。この段階では、がん細胞が周囲の組織に侵入していないため、乳がんの「前がん病変」として扱われることが多く、進行がんよりも予後が良好とされています。しかし、非浸潤性乳がんを手術などの治療をせずにそのまま放置した場合、どのようなリスクや影響が生じるのかについて、以下に詳しく解説します。
1. 非浸潤性乳がんの性質とリスク
非浸潤性乳がんは、他の部位に転移する前段階であるため、浸潤性乳がんに比べて病気の進行は遅いとされています。しかし、放置することで次のようなリスクが発生する可能性があります:
- 浸潤がんへの進行:一部の非浸潤性乳がんは、何年も浸潤しない状態を保つことができますが、一定の割合で浸潤性乳がんへ進行する可能性があります。特に、腫瘍の大きさや核グレード(細胞の異常度)により、浸潤へのリスクが異なることが知られています。
- がんの増殖:非浸潤性乳がんは周囲組織に浸潤しないとはいえ、乳管内でがん細胞が増殖する可能性があります。この増殖によって腫瘍が拡大すると、乳がんの症状が現れたり、触診で腫瘤として感じられることがあります。
2. 非浸潤性乳がんの放置による経過観察と予後
非浸潤性乳がんの放置におけるリスクを考慮し、経過観察を選択する患者もいます。しかし、放置がすべての患者にとって良い選択とは限りません。治療しない場合、経過観察による注意が求められ、定期的な画像検査(マンモグラフィー、超音波、MRIなど)でがんの進行や変化を監視する必要があります。
- 画像診断による早期発見:放置する場合でも、早期発見が可能な診断法を用いることで、浸潤が始まった段階での治療介入が可能になります。特にMRIなどの高感度な検査を定期的に行うことが推奨されます。
- 個別のリスク評価:患者ごとに、非浸潤性乳がんの進行リスクは異なります。例えば、家族歴、BRCA遺伝子変異の有無、腫瘍のグレードなどがリスク要因として考えられます。これらの要因に基づき、放置によるリスクが高いか低いかを医師と共に評価することが重要です。
3. 治療選択の意義と予後改善のための手術
非浸潤性乳がんに対しては、通常手術による切除が推奨されます。治療方法としては、乳房温存手術や乳房切除術があり、患者の希望や腫瘍の大きさに応じて選択されます。
- 治療介入による再発リスクの低減:手術による切除や、必要に応じた放射線療法の追加によって、再発リスクが大幅に減少することが証明されています。特に、乳房温存手術後の放射線療法により、局所再発率が低下し、予後が改善することが知られています。
- 再発の種類とリスク:非浸潤性乳がんを治療せず放置した場合、再発する際には浸潤がんとして現れる可能性が高くなります。これにより、再発時には治療の難易度が増し、より積極的な治療が求められることがあります。
4. 非浸潤性乳がんの自然経過に関する研究
非浸潤性乳がんを手術せず経過観察を選択した患者を対象とした研究は少ないですが、一部の研究により放置した場合の自然経過が示唆されています。これらの研究では、進行のリスクが低いタイプの非浸潤性乳がんでは、数年にわたって進行しない場合もあると報告されています。
- 低リスクDCIS患者への経過観察:ある研究では、低リスクのDCIS患者(腫瘍の大きさが小さく、グレードが低いなど)の一部は、手術をせずに経過観察を選択しても、長期的な生存率に影響が少ない可能性があることが示唆されています。しかし、これは非常に限定されたケースであり、全体的なリスクを考慮する必要があります。
5. 患者の選択と治療方針の決定
非浸潤性乳がんの治療方針は、患者と医療チームとの話し合いによって決定されます。放置を選択する場合、医師と相談の上で個別のリスクと予後を評価し、十分な経過観察体制を整えることが重要です。
- 心理的負担:手術を回避することで一時的な安堵を得ることができる一方で、経過観察中にがんが進行するかもしれないという心理的負担もあります。定期的な検査による心理的負担も考慮し、適切な治療方針を決定することが求められます。
- 患者の価値観と希望:患者の年齢、体力、家族歴、生活の質(QOL)など、さまざまな要因を考慮した上で、手術を受けるか放置するかの選択が行われます。また、非浸潤性乳がんに対する治療方針は、地域や医師によって異なることもあるため、セカンドオピニオンを求めることも推奨されます。
まとめ
非浸潤性乳がんを手術せずにそのまま放置した場合、浸潤がんへの進行リスクや腫瘍の増大などが考えられます。低リスクのケースでは経過観察を選択する患者もいますが、がんが進行する可能性を考慮し、十分な監視体制が求められます。患者ごとにリスク評価を行い、治療方針を医師と共に慎重に決定することが大切です。