HER2陽性早期乳がんの治療法について
HER2陽性早期乳がんの治療法について以下にまとめてみました。
1. HER2陽性早期乳がんとは
HER2(ヒト上皮成長因子受容体2)は、細胞増殖を促進するタンパク質の一種で、乳がんの中でもHER2が過剰に発現しているタイプをHER2陽性乳がんと呼びます。HER2陽性乳がんは、他の乳がんに比べて成長が早く、再発リスクが高い特徴を持っています。しかし、HER2陽性乳がんにはターゲット療法が効果的であり、適切な治療で良好な予後が期待できます。
2. 治療の概要
HER2陽性早期乳がんの治療は、通常、手術、薬物療法、放射線療法の組み合わせで行われます。早期に診断されれば、治療を通じて再発リスクを抑え、長期的な生存率を向上させることが可能です。治療計画は患者個人の状態、腫瘍の大きさや広がり、リンパ節転移の有無などを考慮して決定されます。
2.1 手術療法
HER2陽性早期乳がんの標準治療のひとつが手術療法です。手術には乳房温存術(乳房の一部を切除)と乳房全摘術(乳房全体を切除)の2つの方法があります。手術の種類はがんの位置、大きさ、患者の希望などを基に選択されます。術後には、再発リスクを下げるために放射線療法や薬物療法が行われる場合が多いです。
2.2 薬物療法(化学療法・分子標的療法)
HER2陽性乳がんには、HER2タンパク質を標的とする分子標的療法が特に効果的です。主な薬剤として以下のようなものが挙げられます。
- トラスツズマブ(ハーセプチン)
- HER2陽性乳がんの治療で最も一般的に使用される薬剤です。HER2タンパク質に結合してがん細胞の増殖を抑制し、免疫システムを介してがん細胞を攻撃します。術前(ネオアジュバント療法)や術後(アジュバント療法)に使用され、治療効果を高め、再発リスクを低減します。
- ペルツズマブ(パージェタ)
- トラスツズマブと併用されることが多く、HER2の異なる部位に結合することで、がん細胞の増殖抑制をより効果的に行います。術前・術後の両方で使用されることがあり、効果的な治療法とされています。
- T-DM1(カドサイラ)
- トラスツズマブに抗がん剤が結合した薬剤で、特に術後の再発リスクが高い患者に使用されます。トラスツズマブと抗がん剤の両方の効果を発揮し、がん細胞に直接抗がん剤を届けることで副作用を抑えながら治療効果を高めます。
2.3 化学療法
HER2陽性乳がんでは、分子標的薬と化学療法を併用することが多いです。化学療法にはアンスラサイクリン系やタキサン系の薬剤が使用され、HER2に対する薬剤と併用することで再発リスクをさらに低下させる効果があります。
2.4 放射線療法
乳房温存術を受けた患者には、術後に放射線療法が行われることが一般的です。放射線療法はがんの再発リスクを低減する目的で行われ、乳房内に残る可能性のあるがん細胞を効果的に排除します。
3. 治療プロトコル
HER2陽性早期乳がんの治療プロトコルは、以下のような段階で進行します。
- 術前化学療法(ネオアジュバント療法)
- 手術前に薬物療法を行うことで、腫瘍のサイズを縮小させ、乳房温存術が可能になることを目指します。また、治療の効果を事前に確認することで、術後の治療計画を最適化できます。トラスツズマブやペルツズマブ、化学療法薬が組み合わされることが多いです。
- 手術
- 腫瘍の大きさや位置に応じて、乳房温存術や全摘術が選択されます。手術後の病理検査の結果に基づき、術後の追加治療が決定されます。
- 術後化学療法・分子標的療法(アジュバント療法)
- 手術後には、再発リスクを低減するためにトラスツズマブやT-DM1、ペルツズマブなどの分子標的薬が使用されます。再発リスクが高い場合にはT-DM1が推奨されることもあります。
- 放射線療法
- 乳房温存術後や再発リスクが高いと判断された場合には、放射線療法が行われます。術後の放射線療法は再発予防に大きな効果があるとされています。
4. HER2陽性乳がんに対する新しい治療法と臨床試験
HER2陽性乳がん治療において、さらに効果的な治療法の開発が進んでいます。現在、臨床試験が行われている新しい薬剤や治療法には以下のようなものがあります。
- Tucatinib(ツカチニブ): HER2に対する経口の分子標的薬で、再発や転移を抑制する効果が期待されています。
- Margetuximab(マージェツキシマブ): HER2に対する抗体薬で、免疫反応を強化することが期待されています。
- 抗体薬物複合体(ADC): T-DM1のように、抗体と抗がん剤が結合した薬剤で、特定のがん細胞にのみ作用することを目指した治療法です。ADCの新しいタイプが開発されており、HER2陽性乳がんへの応用が期待されています。
これらの治療法の登場により、HER2陽性乳がんの治療選択肢はさらに広がってきており、個別化治療が進んでいます。
5. 副作用と対策
HER2陽性乳がんの治療には効果的な薬剤が多くありますが、同時に副作用も伴います。トラスツズマブやペルツズマブには心臓毒性があるため、治療中は心機能のモニタリングが必要です。また、化学療法薬と併用することで脱毛や吐き気、倦怠感などが生じることもあります。治療を進める中で副作用が出た場合は、医療チームと連携しながら症状管理を行い、治療の継続が可能なように調整します。
6. まとめ
HER2陽性早期乳がんは、HER2を標的とした分子標的療法や化学療法、手術、放射線療法を組み合わせることで良好な予後が期待できます。治療計画は患者ごとに最適化されており、個別化治療が進んでいるため、患者のQOL(生活の質)を保ちながら治療を行うことが可能です。新しい治療法の開発も進んでおり、今後さらに治療成績の向上が期待されています。