乳がん化学療法の副作用と対処法について


1. 吐き気・嘔吐

副作用の概要
抗がん剤は消化管の粘膜や脳の嘔吐中枢を刺激し、吐き気や嘔吐を引き起こすことがあります。これは治療開始直後から数日間続くことがあり、患者の食欲や栄養状態に大きな影響を及ぼします。

対処法

  • 制吐剤の使用: 化学療法前後に制吐剤(オンダンセトロン、グラニセトロンなど)を投与することで、吐き気・嘔吐を予防・軽減します。
  • 食事の工夫: 少量の食事を頻回に摂る、脂っこい食品や強い香りのある食品を避ける、冷たい食事を選ぶなど、食事内容や摂り方を工夫します。
  • リラクゼーション法: 深呼吸や瞑想、アロマセラピーなどを取り入れることで、精神的な緊張を緩和し、症状を軽減します。

2. 脱毛(脱毛症)

副作用の概要
抗がん剤は毛根の細胞分裂を阻害するため、頭髪だけでなく、眉毛、まつ毛、体毛など全身の毛が抜けることがあります。脱毛は治療開始後2~3週間で始まり、治療終了後に再び生えてきますが、その間の心理的負担は大きいです。

対処法

  • ウィッグや帽子の準備: 脱毛が始まる前にウィッグを購入し、髪型や色を選ぶことで、外見の変化に対する不安を軽減します。
  • 頭皮ケア: 頭皮を清潔に保ち、保湿剤を使用して乾燥を防ぎます。
  • 頭皮冷却療法: 化学療法中に頭皮を冷却することで、毛根への抗がん剤の流入を減らし、脱毛を軽減する方法があります。ただし、効果は個人差があります。

3. 疲労感・倦怠感

副作用の概要
全身の疲労感や倦怠感は、抗がん剤がエネルギー代謝や血液成分に影響を与えるために生じます。これは日常生活に大きな影響を及ぼし、活動意欲の低下や抑うつ状態を引き起こすことがあります。

対処法

  • 十分な休息: 無理をせず、体が要求するだけの休息と睡眠を取ります。
  • 適度な運動: 軽いストレッチや散歩など、無理のない範囲で体を動かすことで、血行を促進し、疲労感を軽減します。
  • 栄養バランスの取れた食事: エネルギーや栄養素を十分に補給することで、体力の回復を助けます。

4. 感染症のリスク増大

副作用の概要
抗がん剤は骨髄機能を抑制し、白血球(特に好中球)の減少を引き起こします。これにより免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなります。

対処法

  • 手洗い・うがいの徹底: 基本的な感染予防策として、外出後や食事前後に手洗い・うがいを徹底します。
  • 人混みを避ける: 感染リスクの高い場所への外出を控えます。
  • 予防接種: 医師の指示のもと、インフルエンザや肺炎球菌の予防接種を検討します。
  • G-CSF製剤の使用: 白血球の減少が著しい場合、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)製剤を使用して白血球の回復を促進します。

5. 貧血

副作用の概要
赤血球やヘモグロビンの減少により、貧血が起こることがあります。これにより、息切れ、めまい、動悸、疲労感が増すことがあります。

対処法

  • 鉄分の補給: 鉄分を多く含む食品(レバー、ほうれん草、赤身の肉など)を積極的に摂取します。
  • エリスロポエチン製剤の使用: 赤血球の生成を促すために、エリスロポエチン製剤を使用することがあります。
  • 輸血: 重度の貧血の場合、赤血球の輸血が行われることがあります。

6. 出血傾向(血小板減少)

副作用の概要
血小板の減少により、出血しやすくなります。歯茎や鼻からの出血、皮下出血(あざ)ができやすくなります。

対処法

  • 出血リスクの回避: 刃物の使用を慎重にし、ケガを避けるようにします。
  • 口腔ケアの注意: 柔らかい歯ブラシを使用し、歯茎を傷つけないようにします。
  • 輸血: 血小板数が著しく低下した場合、血小板輸血が行われることがあります。

7. 口内炎・口腔粘膜炎

副作用の概要
抗がん剤が口腔粘膜の細胞に影響を与え、口内炎や口腔粘膜の炎症が起こります。これにより、食事摂取が困難になることがあります。

対処法

  • 口腔ケアの徹底: 食後や就寝前に、口腔内を洗浄・うがいします。アルコールを含まないマウスウォッシュを使用します。
  • 痛みの緩和: 痛みが強い場合、鎮痛剤や口腔用の麻酔ジェルを使用します。
  • 食事の工夫: 刺激の少ない、柔らかい食品を選びます。熱い、辛い、酸っぱい食品は避けます。

8. 下痢・便秘

副作用の概要
抗がん剤は腸管の粘膜や蠕動運動に影響を及ぼし、下痢や便秘を引き起こすことがあります。

対処法(下痢の場合)

  • 水分と電解質の補給: 脱水を防ぐために、十分な水分を摂取します。経口補水液が有効です。
  • 食事の調整: 消化に良い食品(おかゆ、バナナ、りんごなど)を摂取し、脂肪分や繊維質の多い食品は控えます。
  • 医師への相談: 下痢が続く場合は、抗下痢薬の処方や原因の特定のために医師に相談します。

対処法(便秘の場合)

  • 水分と食物繊維の摂取: 水分を十分に摂り、食物繊維を含む食品(全粒穀物、野菜、果物)を積極的に摂取します。
  • 適度な運動: 軽い運動は腸の蠕動運動を促進します。
  • 医師への相談: 便秘が続く場合は、緩下剤の使用を検討します。

9. 末梢神経障害

副作用の概要
一部の抗がん剤(タキサン系、プラチナ製剤など)は末梢神経に影響を与え、手足のしびれ、痛み、感覚異常を引き起こします。

対処法

  • 症状のモニタリング: 早期に症状を医師に報告し、抗がん剤の投与量やスケジュールの調整を検討します。
  • ビタミンB群の補給: ビタミンB12やB6の摂取が症状の軽減に役立つ場合があります。
  • 痛みの緩和: 痛みが強い場合、鎮痛剤や抗けいれん薬の使用を検討します。

10. 皮膚・爪の障害

副作用の概要
皮膚の乾燥、かゆみ、発疹、色素沈着、爪の変色や変形が生じることがあります。

対処法

  • スキンケア: 保湿剤を使用して皮膚の乾燥を防ぎます。刺激の少ない石鹸や洗浄剤を使用します。
  • 日焼け止めの使用: 紫外線に対する感受性が高まるため、外出時には日焼け止めを使用します。
  • 爪のケア: 爪を短く整え、保湿剤を塗布します。ネイルポリッシュの使用は避けます。

11. 生殖機能への影響

副作用の概要
抗がん剤は卵巣機能に影響を与え、生理不順や閉経、将来的な妊娠能力の低下を引き起こすことがあります。

対処法

  • 生殖専門医への相談: 治療前に生殖専門医と相談し、卵子や胚の保存などの生殖機能温存法を検討します。
  • ホルモン補充療法: 閉経症状が強い場合、ホルモン補充療法を検討します(ただし、乳がんのタイプによっては適応外の場合があります)。

12. 認知機能の低下(いわゆる「ケモブレイン」)

副作用の概要
注意力や記憶力の低下、集中力の欠如などの認知機能の障害が報告されています。

対処法

  • スケジュール管理: メモやカレンダーを活用し、予定やタスクを明確にします。
  • 脳トレーニング: クロスワードパズルや数独などで脳を活性化します。
  • 十分な休息: 睡眠を十分に取り、疲労を蓄積させないようにします。

13. 精神的・心理的影響

副作用の概要
長期にわたる治療や副作用による生活の変化は、ストレスや不安、抑うつを引き起こすことがあります。

対処法

  • カウンセリングの活用: 心理カウンセラーや精神科医との面談により、心理的なサポートを受けます。
  • サポートグループへの参加: 同じ境遇の人々と交流し、情報共有や励まし合いを行います。
  • リラクゼーション法: ヨガ、瞑想、深呼吸などを取り入れ、ストレスを軽減します。

14. 味覚・嗅覚の変化

副作用の概要
食べ物の味や匂いが変わることで、食欲の低下や栄養状態の悪化を招くことがあります。

対処法

  • 味付けの工夫: レモンやハーブなどで風味を加え、食事を楽しめるようにします。
  • 食事の温度調整: 冷たい食事や温かい食事で、味覚の感じ方が変わることがあります。
  • 新しい食品の試食: 新しい食品や調理法を試すことで、食欲を刺激します。

15. 心臓・循環器系への影響

副作用の概要
一部の抗がん剤は心機能に影響を与え、不整脈や心筋障害を引き起こすことがあります。

対処法

  • 心機能の定期検査: エコー検査や心電図などで心機能をモニタリングします。
  • 症状の報告: 息切れ、胸の痛み、動悸などの症状が出た場合、速やかに医師に報告します。
  • 薬剤の調整: 必要に応じて抗がん剤の種類や投与量を調整します。

まとめ

乳がんの化学療法に伴う副作用は多岐にわたり、患者の生活の質や治療の継続に影響を及ぼす可能性があります。しかし、適切な対処法を講じることで、これらの副作用を軽減・管理することが可能です。患者自身が症状を正確に把握し、医療チームと密接に連携することが重要です。また、心理的なサポートや社会的な支援を活用し、治療を乗り越えるための環境を整えることも大切です。

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虎の門病院

虎の門病院

脱毛や吐き気、白血球減少

抗がん剤には、個人差はありますが、それぞれに副作用があります。しかし、ある程度副作用の傾向も決まっているので、現在はその対処のしかた、予防の方法もずいぶん進歩しています。このためあまりこわがらないでもだいじょうぶです。まず、主な薬剤の代表的な副作用を見てみましょう。

AC療法(同系統のものにEC療法、FAC療法、FEC療法があります)

3週ごとに通常4回の点滴(4サイクル)を行います。
1990年代以降、標準的な投与法として幅広く用いられてきました。現在はTC療法に置き換わりつつあります。アドリアマシン(A)を類似薬のエピルビシン(E)に代えたのがEC療法で、さらに5-FUを組み合わせたのがFAC療法、FEC療法です。3週間に一度の点滴を計4回行います。短期間で終わることが利点ですが、脱毛と吐き気が副作用として問題になります。

TC療法

AC療法のアドリアマイシンをタキソテールに置き換えたのがTC療法で、2006年末の論文発表から使用頻度が増えてきました。元々アメリカで研究が進んだ経緯があり、4サイクルの抗がん剤としてはアメリカではTC療法が主流ですが、ヨーロッパではまだまだEC療法、FEC療法が健闘しており、日本がその中間くらいの状況です。主な副作用としては脱毛、全身倦怠感、皮疹、末梢神経障害などが知られています。

AC→T療法(同系統のものにFEC→T療法)

AC療法やFEC療法を4サイクル行った後、引き続きタキソテールやタキソールを投与する方法です。再発のリスクが高く、化学療法の効果が高いと予想される患者さんに用いられます。副作用の内容としてはAC療法、TC療法と大きくは変わりませんが、治療が長期に及ぶ分、副作用もきつくなります。

以上の3タイプの他にはTAC療法やCMF療法が行われています。TAC療法はアメリカで主に行われており、CMF療法は1980年代~90年代に行われた治療法で、効果はやや落ちますが副作用の少なさが評価され今でも高齢者に行われる場合があります。

主な副作用とその対策

副作用は、抗がん剤の効果と比例するものではなく、副作用が強いから効果も高いというわけではありません。ですから、副作用はがまんしないで、薬で抑えたり、適切な対策をとって乗り切りましょう。

吐き気・嘔吐

吐き気も個人差が大きいのですが、アドリアマイシンやエピルビシン、シクロフォスファミドなど、吐き気が出るリスクが高い抗がん剤を使う場合には、抗がん剤の点滴をする前に、吐き気止めを注射や内服で用います。
5-HT3受容体拮抗剤、副腎皮質ステロイドホルモンが主に用いられていますが、最近では新規5-HT3受容体拮抗剤のパノロセトロン、NK1受容体拮抗剤のアプレピタントが使用可能になり、抗がん剤のタイプによって選択の幅が広がりました。
また、一度強い吐き気を経験すると、化学療法が始まると思っただけで吐き気が出てしまう(予期性嘔吐)ことがあります。この予防にはもちろん嫌な経験を一度でもしないようにすることが重要ですが、抗不安薬などの内服により緩和できることが知られています。

【日常生活でできる工夫】

☆抗がん剤を投与する日の食事は、軽めにする。
☆食事を少しづつとり、一度に満腹にならないようにする。
☆ 食事や飲み物は、ゆっくりとる。
☆油っぽいものや消化の悪いものは避ける。
☆臭いによるムカツキを防ぐには、食べ物を冷やしたり、冷ましてから食べるとよい。
☆リンゴジュースやグレープスルーツジュースを冷やして飲んだり、氷を口に含む。
☆食後はすぐに横になるより、1時間ぐらい椅子に座って休む。
☆映画を見たり、音楽を聞く、おしゃべりをするなど、好きなことに集中して気分転換をはかる。

白血球の減少や貧血など骨髄抑制

抗がん剤によって、血液中の血球成分をつくる骨髄の働きが低下するために起こる副作用です。白血球が減少すると、免疫@めんえき@が低下して病原菌に感染しやすくなります。そのために、カゼや肺炎、発熱、虫歯の痛みやはれ、食中毒などにもかかりやすくなります。
ふつう、白血球は抗がん剤を投与して1週間前後から低下しますが、3週間ほどで回復します。実際に感染を起こすことは少なく、発熱など感染があった場合には、抗生剤で治療します。白血球(好中球)の量が減少しすぎた場合には、白血球を増やす薬を使ったり、抗がん剤の量を減らしたり、しばらく治療を休んだりして対処します。
赤血球が減少すると、貧血になってだるくなったり、息切れを感じることもあります。血小板が減少すると、出血しやすくなるので、鼻血や歯茎からの出血、下血などがあったら、医師や看護師に相談してください。

【日常生活でできる工夫】

☆治療中は、人が多い場所にはなるべく行かない。
☆外出したら、手洗いとうがいを忘れずに。
☆38度以上の発熱があったら、医師、看護師に相談する。
☆膀胱炎やカゼ症状など、感染症状に気づいたら病院へ。

脱毛

外見が変わってしまうので、精神的にも非常にストレスが大きいのが脱毛です。髪の毛だけではなく、眉毛や体毛まで抜けてしまうこともあります。
残念ながら、脱毛を根本から防ぐ手段はありません。ただ、ちょっとした工夫で、気持ちをやわらげることはできます。そして、治療が終わればすぐに毛がはえてきて、元通りになることを忘れないでください。

【日常生活でできる工夫】

☆朝起きたとき、寝具にたくさん毛髪が落ちていたり、シャンプーやブラッシングのときに大量に毛が抜けるのは、決して気持ちのよいものではありません。できれば、治療前に髪を短くしておきましょう。
☆シャンプーは刺激の少ないものに。
☆ブラシはやわらかいものに。
☆パーマや毛染めはお休みに。
☆あらかじめ、気に入った帽子やバンダナを用意して。
☆脱毛が起きる前に、カツラを用意する。

口内炎や味覚の変化

抗がん剤による口内炎は、口の中がただれたり、潰瘍@かいよう@ができて、痛みで食事をとれないほどひどくなることもあります。そのために、病原菌の感染が起こることもあります。こうしたときは、局所麻酔薬の入ったうがい薬を使ったり、鎮痛剤を使います。

【日常生活でできる工夫】

☆やわらかい食事や流動食にする
☆口の中を清潔にしておく。うがいは、起床時、毎食後、就寝前など、1日7~8回以上を目安に。
☆歯磨きはやわらかい歯ブラシを使う。
☆可能ならば、化学療法をはじめる前に歯科医で歯の掃除を。
また、苦みを感じたり金属のような味がしたり、味覚の低下や過敏になるなど、味覚にも異常が起こることがあります。味覚異常には亜鉛@あえん@が効くことがあるので、医師や看護師に相談してみましょう。
フルオロウラシルやカペシタビンなどの抗がん剤は、「手足症候群」を起こすことがあります。手足の裏が刺すように痛んだり、感覚が鈍る、発赤@ほつせき@や発疹@ほつしん@、かゆみなどが出て患者さんを悩ませます。保湿クリームやステロイドの塗り薬で軽減することもありますが、ひどい場合は薬の量を減らしたり、中止することもあります。

その他

このほか、下痢やむくみ、便秘、関節や筋肉の痛み、タキサン系の抗がん剤では、手足のしびれやピリピリ感、刺すような痛み、感覚が鈍くなるなど、末梢神経傷害があらわれることがあります。まだこれを防ぐ薬はありませんが、治療が終われば多くは改善していきます。

☆ コラム 副作用からの回復

抗がん剤には、さまざまな副作用があり、健康なときならばあまり深刻には考えない口内炎やしびれ、皮膚の発疹なども、ひどくなると治療を中断しなければならないこともあります。
ただし、治療が終わればほとんどの症状は回復していきます。そのスピードは、副作用の種類によっても異なりますが、たとえば皮膚の症状や毛髪などは、細胞の入れかわる速度が速いので、治療を終えて数週間で回復してきます。とはいえ、髪の毛を伸ばすのと同じですから、元の髪形に戻るには何カ月かかかります。
タキサンによるしびれや手足の感覚異常などは、もう少し時間がかかって、治療終了後9カ月以内に半数の人が回復すると報告されています。