乳房線維腺腫

乳房線維腺腫(Fibroadenoma of the breast)は、主に若年女性に多く見られる良性の乳腺腫瘍です。この腫瘍は、乳腺の線維組織と腺組織が混合して成長したもので、通常は単一で発生し、硬くて滑らかで、移動性のある塊として触知されます。以下では、乳房線維腺腫の特徴、原因、診断、治療、および予後について詳しく説明します。

1. 乳房線維腺腫の特徴

乳房線維腺腫は、最も一般的な良性の乳房腫瘍の一つであり、特に10代後半から30代にかけての若い女性に多く発生します。これらの腫瘍は通常、1~2センチメートル程度の大きさですが、時には5センチメートル以上の大きさに成長することもあります(巨大線維腺腫と呼ばれます)。乳房線維腺腫は多くの場合、痛みを伴わず、偶然に触診で発見されることが一般的です。典型的には、乳房内で自由に動く、滑らかなゴム状の硬さを持った塊として感じられます。

腫瘍の成長速度は個々の患者によって異なり、一部の腫瘍は短期間で大きくなることがありますが、ほとんどの場合はゆっくりとした成長を示します。加えて、線維腺腫は、ホルモンの変動、特にエストロゲンの影響を受けやすいことが知られています。そのため、妊娠中や月経周期の前に一時的に大きくなることがあり、閉経後にはしばしば縮小します。

2. 乳房線維腺腫の原因

乳房線維腺腫の正確な原因は明確ではありませんが、ホルモン、特にエストロゲンが重要な役割を果たしていると考えられています。エストロゲンは乳腺組織の成長を促進するホルモンであり、これが異常に反応して線維腺腫が形成されるとされています。また、乳房線維腺腫は、遺伝的な要因も関与している可能性が示唆されています。家族歴がある場合、特に母親や姉妹に同じような腫瘍が見られる場合、発症のリスクが高くなる傾向があります。

3. 乳房線維腺腫の診断

乳房線維腺腫の診断は、以下のような複数の方法で行われます。

触診

患者自身が乳房の自己検診でしこりを発見することが多いです。医師による触診では、滑らかで移動性のある塊が確認されます。触診だけで良性か悪性かを判断することは難しいため、追加の検査が必要となります。

画像診断

乳腺超音波検査(エコー)は、線維腺腫の診断において最も一般的に使用される画像検査です。超音波検査では、腫瘍が境界が明瞭で均一な内部構造を持つことが多いため、悪性腫瘍との鑑別に役立ちます。また、マンモグラフィーも用いられることがありますが、若い女性の乳房は高密度であるため、超音波の方が有用である場合が多いです。

生検

画像診断で良性であると判断されても、腫瘍が大きかったり、急速に成長したりする場合には、確定診断のために生検(細胞や組織を採取して顕微鏡で観察する検査)が行われることがあります。針生検や穿刺吸引細胞診(FNA)が一般的で、これにより良性か悪性かを確認します。

4. 治療

乳房線維腺腫は良性腫瘍であり、がん化するリスクが極めて低いため、特別な治療が不要な場合が多いです。ただし、腫瘍の大きさや成長速度、患者の不安感に応じて、治療が考慮されることもあります。治療法には以下のような選択肢があります。

経過観察

多くの乳房線維腺腫は時間とともに変化がなく、特に症状がない場合や腫瘍が小さい場合は、定期的な検診による経過観察が推奨されます。患者が定期的に自己検診を行い、腫瘍のサイズや形状に変化がないか確認することが重要です。医師の診察や画像検査も定期的に行われます。

外科的切除

腫瘍が大きくなり続けたり、患者が不快感を訴えたりする場合、または診断に不確実性がある場合には、外科的に腫瘍を切除することが選択されることがあります。切除手術は、腫瘍を完全に取り除くための確実な方法です。特に巨大線維腺腫や、年齢が若い患者で成長を続ける腫瘍に対しては、切除が検討されることが一般的です。

低侵襲治療

最近では、乳房線維腺腫に対する低侵襲治療も注目されています。例えば、冷凍凝固療法(クリオアブレーション)は、腫瘍を低温で凍結し、破壊する方法です。これは手術よりも侵襲性が低く、傷跡も残りにくいため、特に美容的な観点から有用とされています。ただし、すべての患者に適用できるわけではなく、腫瘍の大きさや位置に応じて選択されます。

5. 予後とフォローアップ

乳房線維腺腫は良性の腫瘍であり、がん化するリスクは非常に低いとされています。稀に「複雑性線維腺腫」と呼ばれる形態の腫瘍があり、これは標準的な線維腺腫よりもややリスクが高いとされていますが、それでも乳がんに進行する可能性は非常に低いです。

ただし、患者の不安感を軽減するためにも、定期的な検診や自己検診を継続することが推奨されます。特に閉経後に発症した腫瘍や、急速に成長する腫瘍、痛みを伴う腫瘍については、より注意深いフォローアップが必要です。また、線維腺腫が多発する場合や、家族歴がある場合は、将来的なリスクを評価するために、専門医の診察を受けることが推奨されます。

6. 線維腺腫と乳がんの関連性

線維腺腫は良性腫瘍であるため、基本的には乳がんとの直接的な関連はありません。しかし、一部の研究では、複雑性線維腺腫や家族性の乳がんリスクが高い場合において、若干の乳がんリスク増加が指摘されています。このため、乳房線維腺腫の患者でも、特に乳がんのリスク因子がある場合は、定期的なマンモグラフィーや乳がんスクリーニングが推奨されることがあります。

結論

乳房線維腺腫は、良性の乳腺腫瘍として広く知られており、特に若年女性に多く発生します。原因はホルモンの影響や遺伝的要因と関連があると考えられており、多くの場合、痛みを伴わずに偶然発見されます。診断には触診、画像診断、生検が用いられ、治療は経過観察が一般的ですが、場合によっては外科的切除や低侵襲治療が検討されます。乳房線維腺腫は基本的に良好な予後を持ちますが、定期的なフォローアップが重要です。

以上、2024年10月

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1,乳腺線維腺腫

  • 概念

線維腺腫は,間質結合織性成分と上皮性成分の過剰増殖による良性結節病変である。好発年齢は20〜30歳代で,乳がんより若年で生じる。通常は2〜3cmになると増殖が止まり,自然退縮するものもある。さらなる増大傾向を示すものは比較的少なく,その原因として,経口避妊薬や妊娠,ほかのホルモンの刺激があげられることもあるが,多くの場合明確な理由は不明である。線維腺腫の上皮成分から乳がんが発生するケースがまれにある。

  • 症状・診断

症状は平滑で境界明瞭で可動性良好な腫瘤(しゅりゅう)の触知である。典型的な線維腺腫は,マンモグラフィーでは辺縁明瞭な腫瘤陰影として,超音波検査では境界明瞭で内部エコーが均一な腫瘤陰影として描出される。乳房超音波検査で悪性との鑑別を行うことが重要であるが,超音波ガイド下の針生検を行うと通常は確定診断が得られる。線維腺腫が疑われた場合に悪性を除外するため全例に針生検を行うのはovertreatment(過剰な検査)であるが,経過観察によって後日悪性と判明することもあるので,診断の線引きは臨床判断に患者希望を加味して行うことになる。

  • 治療

線維腺腫の治療は基本的には不要であり経過観察を行うが,経過観察中に増大してきた場合や,病変が3cmを超えているような場合は,葉状腫瘍の可能性を除外する目的や,整容性のために切除生検(腫瘤摘出術)を行う。

The Okura Tokyo Aug. 2021