乳がん患者会のお知らせ(虎の門病院)

虎の門病院 乳がん患者会のお知らせ

患者会参加ご希望の方は、虎の門病院のがん相談窓口に御連絡ください。
また最新情報は病院公式ホームページのお知らせからご確認ください。

 

 

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SU2C’s PI3K Pathway Dream Team

Stand Up To Cancerが支援するPI3K経路解明のためのアメリカを中心としたドリームチーム(PI3K Dream Teamで検索するとアクセスできます)のお話です。今、乳癌の研究で最も注目を浴びている領域ですが、施設横断的なドリームチームを、募金を通じてみんなで支援しているという構図です。この領域の超一流の研究者がその意義を語りかけています。

Stand Up To Cancer (SU2C) とは
メテ゛ィア、エンターテーメント、慈善事業のそれぞれのリーダー(かつてガンにかかった方)によって設立されたEntertainment Industry Foundation (EIF) の慈善プログラムです。

(Aug.31,2012,in TOKYO)

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PI3K経路とは

通常、細胞の生存・増殖と、タンパク質合成を促進する経路です。この経路が遺伝子異常により活性化されると、腫瘍の増殖、癌を誘発する他経路との連携、治療抵抗性の獲得などの原因となります。乳癌ではホルモン療法やHER2療法に対する抵抗性の獲得に大きな役割を果たしており、この経路をコントロールすることで治療の大きな進展が期待されています。

2010 年12月にサンアントニオ(USA)で開催された国際会議のトピックスから(今回の会議で最も注目を集めた2つのテーマから)

<1>dual blockade effective

HER2シグナル伝達経路を複数の方法でブロックする方が、単独のブロックより有効だということで、具体的にはトラスツヅマブ+ラパチニブ>トラスツヅマブ あるいはトラスツヅマブ+pertuzumab>トラスツヅマブということが見えてきたということです。これらはいずれも高額の分子標的治療薬ですが、HER2シグナル伝達経路の完全ブロックという方法を当面は目指して研究が進むと思われます。(GEPARQUINTO Trial, Neo-ALTTO Trial, NEOSPHERE Trial)

<2>Azure trial : Negative Results

オーストリアのトライアル(ABCSG-12、1800名の患者さんが参加)の結果でゾメタの再発抑制効果が報告され、非常に期待されていましたが、さらに大規模な3360名の試験結果(Azure trial)では効果が否定されました。詳細なデータ解析はこれからですが、ゾメタを術後補助療法として使うことはまだまだ研究段階であることがわかりました。
<The Z0011 trialについて>

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ASCO論文(2011年2月9日)

Axillary Dissection vs No Axillary Dissection in Women With Invasive Breast Cancer and Sentinel Node Metastasis JAMA. 2011;305(6):569-575

昨年ASCO(アメリカ臨床腫瘍学会)で注目された試験結果が2011年2月9日論文として発表され注目されています。
試験の概要:センチネルリンハ゜節生検で1~2個の転移を認めた患者さん(乳房温存手術+放射線照射例)のリンハ゜節郭清を行っても再発率、生存率の改善に貢献しないという話です

以下は同僚との私的なメールからの引用です

The Z0011 trialは、腋窩転移リンパ節を放置しても、生命予後に影響を与えないかどうかというOncologyの長年の命題に正面から挑んだわけではなく、乳房照射により、下部腋窩が照射野に含まれ、またn(+)ということで、術後補助治療が施行される群の患者には腋窩郭清を省略できるかというpractical な問いに答えを出そうとした試験です。

noninferiority を証明するために1900例の登録と、500例のevents が必要とされています。しかしながら、症例集積が進まず900例で打ち切りになっています(94 events)。この状況でこのデータをどう解釈して、実臨床につなげるかの問題だと思います。(1)術中判断でかなり転移がありそうな症例は腋窩郭清を行う、(2)術中迅速診断で(-)だったが、あとで(+)と判明した程度の症例はそのまま郭清を行わないという対応はコンセンサスが得やすいと思われます。

その他をどうするかということになると思います。個人的には、術中センチネル陽性と出た場合、迅速診での転移の程度、手術所見、腫瘍径、癌のサブタイプ、術前化学療法の有無、本人の体型などを考慮して、リンパ節のサンプリング追加(数個)~下部腋窩郭清~レベル1郭清~レベル1,2郭清という段階的な対応をしています。(現実問題としてサンプリングを追加してもmorbidityに有意な差はないように思います)

The Z0011 trialが不十分なstudyだったため、センチネル+でも生検のみで終わらせることはせず、(術中に判明しているなら)サンプリングあるいはそれ以上の追加手術を加える流れが当面続くと思います。臨床経験の蓄積、cancer biologyの理解、薬物療法の進歩,さらに画像診断、照射技術の進歩が加わり、バランスのとれた腋窩治療がわかってくると考えています。臨床を変えていく重要なtrialだとは思いますが、現場の変化はそれほどdrasticではないと思います。

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非浸潤性乳管癌に対する乳房温存療法の妥当性について

In conclusion, we believe that these long-term findings of NSABP B-17 and B-24 demonstrate that lumpectomy and adjuvant therapies are effective modalities for the treatment of DCIS. It is highly likely that current breast imaging practices, improvements in margin assessments, and advances in adjuvant treatments will continue to reduce the incidence of invasive recurrences after DCIS.

非浸潤性乳管癌の2つの大規模な臨床試験の結果が発表されました(the Journal of the National Cancer Institute 2011年3月16日号)非浸潤性乳管癌の治療として乳房温存療法の妥当性があらためて証明されたと言える結果でした。

(Dec.11,2010,in San Antonio)

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非浸潤性乳がん(0期の乳癌)とその治療

非浸潤性乳管癌について

非浸潤性乳管癌(Ductal Carcinoma In Situ, DCIS)は、乳房内の乳管に発生する乳がんの一種で、がん細胞が乳管内に限局している状態を指します。DCISは「非浸潤性」とされ、がん細胞が周囲の組織には浸潤しておらず、転移のリスクも非常に低い段階です。この状態では、がんが体の他の部分に広がることはなく、乳管の内側に留まっていますが、治療しない場合、後に浸潤性乳がんに進行するリスクがあります。

DCISは、早期の乳がんの一つであり、乳がんの前駆段階とも考えられます。適切な治療を行えば予後は良好ですが、進行すると周囲の組織やリンパ節、さらには他の臓器へと広がる可能性があるため、早期発見と治療が重要です。

DCISの特徴と症状

非浸潤性乳管癌の特徴は、がん細胞が乳管内に限局していることです。通常、乳管は乳房内の母乳を乳頭に運ぶ管であり、DCISはこの乳管の内側の細胞が異常に増殖してがん化した状態を指します。

1.症状

. 症状DCISの多くの患者は、明確な症状を感じることがありません。自覚症状がなく、偶然に発見されることが多いです。DCISは初期の乳がんであり、がんが乳管内に限局しているため、腫瘍が小さく、触診では感じにくいことが多いです。ただし、一部の患者では以下のような症状が現れることがあります:

  • 乳房のしこり:稀に、しこりや腫瘍を感じることがあります。
  • 乳頭からの異常分泌物:血液が混じった分泌物が乳頭から出ることがあります。
  • 乳房の皮膚の変化:乳房の皮膚が赤くなったり、厚く感じたりすることもありますが、これはDCISの典型的な症状ではありません。

2. マンモグラフィによる発見

DCISは、多くの場合、定期検診のマンモグラフィで発見されます。マンモグラフィは、乳房のX線撮影を行う検査であり、乳房内の異常を早期に検出するのに非常に有効です。DCISでは、微小石灰化と呼ばれるカルシウムの沈着が乳管内に現れることがあり、これがマンモグラフィ上に映ります。この微小石灰化がDCISのサインとなり、がん細胞の存在が疑われるため、さらなる検査が行われます。

非浸潤性乳管癌の診断

DCISの診断は、以下のステップで行われます。

  1. マンモグラフィ:定期検診や乳房の異常が見つかった場合、マンモグラフィが最初の検査として行われます。ここで乳房内の微小石灰化が見られる場合、がんの可能性があるため、さらに詳細な検査が行われます。
  2. 超音波検査(エコー):超音波を使って乳房の内部を観察します。特にマンモグラフィで疑わしい部分があった場合、腫瘍の詳細を確認するために超音波検査が行われることがあります。
  3. 針生検(バイオプシー):マンモグラフィや超音波検査で異常が見つかった場合、針を使って乳房内の組織を採取し、がん細胞の有無を確認します。DCISの場合、がん細胞は乳管内に限局していますが、この検査でそれが確認されます。

非浸潤性乳管癌の分類

DCISは、がん細胞の形態や成長の速さ、分化度に基づいていくつかのサブタイプに分類されます。これにより、がんの進行リスクや再発リスクが評価され、治療方針が決定されます。主に以下の要素で評価されます:

  1. グレード(分化度):DCISの細胞がどれほど異常であるかを示す指標です。高グレード(低分化)であるほどがんの進行が早く、再発リスクが高いとされています。一方、低グレード(高分化)のDCISは、進行が遅く、予後が比較的良好です。
  2. 細胞の成長パターン:がん細胞がどのように増殖しているかも、DCISの特徴を示す重要な要素です。均一なパターンで増殖するものもあれば、不規則に増殖するものもあります。
  3. ホルモン受容体:エストロゲン受容体やプロゲステロン受容体の有無もDCISの診断において重要です。これらの受容体が陽性であれば、ホルモン療法が効果的である可能性があります。

    非浸潤性乳管癌

    非浸潤性乳がん(非浸潤性乳管癌の病理組織像)

非浸潤性乳管癌の治療法

DCISは、がん細胞が乳管内に限局しているため、浸潤性乳がんに進行する前に治療することが望ましいです。主な治療法は以下の通りです。

1. 手術

DCISの治療では、手術が最も一般的であり、乳房温存術と乳房切除術の2つの手術法があります。

  • 乳房温存術:DCISが乳房の一部分に限局している場合、がん組織とその周囲の正常な組織を一部切除する手術です。乳房全体を切除せず、乳房を温存することができるため、美容的にも優れています。術後に放射線療法を併用することが多いです。
  • 乳房切除術:DCISが広範囲にわたる場合や、再発のリスクが高い場合には、乳房全体を切除する手術が選択されることがあります。乳房を完全に切除することで、再発リスクを大幅に低減させることが可能です。乳房切除術を行った場合でも、乳房再建手術を行うことができ、患者のQOL(生活の質)を維持する選択肢があります。

2. 放射線療法

乳房温存術の後、再発リスクを低減するために放射線療法が行われることがあります。放射線は乳房全体に照射され、がん細胞の残存を防ぐ役割を果たします。これにより、再発リスクが30~50%減少することが示されています。

3. ホルモン療法

エストロゲン受容体(ER)陽性のDCIS患者に対しては、ホルモン療法が行われることがあります。タモキシフェンやアロマターゼ阻害薬などのホルモン療法薬を使用することで、再発リスクをさらに低減させることが可能です。

非浸潤性乳管癌の予後

DCISは早期発見が可能で、適切に治療すれば予後は非常に良好です。手術や放射線療法を行った患者の大部分は、再発や進行性の乳がんを回避できることが多いです。ただし、治療後も再発のリスクは完全には排除されないため、定期的なフォローアップが重要です。

また、放置されたDCISは、10~30%の確率で浸潤性乳がんに進行するリスクがあります。このため、治療を怠ることなく、早期の対応が推奨されます。

まとめ

非浸潤性乳管癌は、早期に発見されやすく、適切に治療することで完治が期待できる乳がんの前駆段階です。マンモグラフィなどの定期的な検診が重要であり、早期発見がその後の予後に大きく関わります。

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《以前は乳房切除が中心》

0期は、まだがんが乳管内にとどまっている非浸潤がんです。シコリとして触れることは比較的少なく、マンモグラフィで「微細石灰化」として発見されたり、超音波検査でごく小さな腫瘤として発見され、生検でがんと診断されたものが中心です。 つまり、0期は超早期のがん。浸潤がんでも乳房温存療法ができるのですから、非浸潤がんなら乳房温存療法は当然で、もっと小さな手術でも治るのではないか、と考える人が多いのではないでしょうか。
ところが、浸潤がんに乳房温存療法が導入された後も、0期の乳がんはむしろ乳房を切除する乳房切除術が一般的だったのです。非浸潤がんは、まだ乳管の外には出ていませんが、そのかわり乳管内に病変が広く分布していることが多く、がんの部位を局所的に切除する乳房温存療法では取り残しの危険がある、と考えられていました。 これまでの経験から、非浸潤がんを取り残した場合、その半数は浸潤がんとして再発してきます。もちろん、発見された時点でまた手術をするなど治療を行えば、その多くは治ります。しかし、乳房切除術で取ってしまえば確実に治るがんで、万が一命を落とすようなことがあってはならないと考え、乳房温存の慎重論が強かったのです。

非浸潤性乳がん(非浸潤性乳管癌) 病理写真(HE染色)

《センチネルリンパ節生検も必要》

しかし、幸い現在では、MRI、超音波検査、マンモグラフィーなどの画像診断が進歩し、がんの広がりをかなり正確にとらえられるようになってきました。また治療データが蓄積されてきたこともあり、非浸潤がんでもがんが広範囲に分布していなければ、積極的に乳房温存療法が行われています。
乳房温存療法で病巣を摘出したあとに乳房に放射線照射を行うのは、基本的には浸潤がんの手術と同じです。放射線照射によって、乳房内の局所再発を防ぐことができます。
では、センチネルリンパ節生検はどうでしょうか。非浸潤がんは、乳管内にとどまるがんなので、理論的には転移のおそれはないはずです。ところが、実際には、わずかですが腋窩リンパ節転移をともなう例が報告されています。これは、一部にごくわずかな浸潤があったためと見られています。また非浸潤がんといっても実際には手術後に初めてその診断が確定され、手術をしてみたら浸潤がんであったというケースも少なくありません。そのため、腫瘍の範囲が広い場合、またがんの顔つきが悪い場合、乳房全摘が行われる場合など、多くの場合で、乳房の手術と同時にセンチネルリンパ節生検を行います。
乳房温存手術後は、ホルモン感受性が陽性ならば、タモキシフェンを再発予防のために5年間服用することも治療の選択肢になりますが、一般的には術後の薬物療法は行いません。
悪性度の低い、小さな病変などを中心に非浸潤がんの中には、そのまま大きくならずに終わってしまうものもあると考えられています。過剰診断、過剰治療という問題ですが、がんの早期診断に関わる重大な問題です。診断技術の進歩とデータの蓄積で一歩ずつ解決していくことが期待されています.

Oncotype DX DCIS(非浸潤性乳管癌の局所再発リスクを予測する遺伝子ツール)の取り扱いのお知らせ

2012年2月6日から、虎の門病院でオンコタイフ゜DX-DCISの取り扱いを開始しました。非浸潤癌で手術を受けられた方で、適応のある患者さんに御紹介しています。(2012年2月)

<非浸潤性乳管がん治療選択の新たな指標が開発される>

Oncotype DXで非浸潤癌の再発リスクを予測(Oncotype DX DCIS)

非浸潤性乳管がん(DCIS)の局所再発リスクを予測するDCISスコア日本でも2012年2月から可能になりました。多遺伝子検査 Oncotype DX(Genomic Health社)の12遺伝子を活用します。(2011年12月)

シルバースタイン再発スコアについて

南カリフォルニア大学のグループ(シルバースタイン)はVNPI(The Van Nuys Prognostic Index)という指標を提案し非浸潤癌治療の指針を発表しており、世界各国の専門家に利用されています(以前のスコアでは年齢が考慮されていませんでしたが、現在は年齢も加味されています)

具体的には4項目の得点の合計で治療の大まかな方向性を決めようという試みです

1) 腫瘍径 1.5cm以下 1点 1.6~4.0cm 2点 4.1cm以上 3点

2) 細胞核異型度 グレード1 1点 グレード2 2点 グレード3 3点

3) 切除断端と腫瘍の最短距離 1cm以上 1点 0.9~0.1cm 2点 0.1cm未満 3点

4) 年齢 61歳以上 1点 40~60歳 2点 39歳以下 3点

この4項目の合計がVNPIスコアで、

4~6点 乳腺部分切除のみ

7~9点 乳房部分切除+放射線治療

10~12点は乳房切除が妥当な治療と分類されます。

具体的に、腫瘍径8mm、核異型度グレード1、切除断端距離1.2cm、47歳の場合は1+1+1+2=5点で、乳腺部分切除が妥当な治療法ということになります。

なおこれですべてが決まるわけではありません。個々の患者さんと腫瘍の条件を加味して最終方針を決める際のたたき台と考えていただければいいでしょう。

非浸潤性乳管癌(針生検) 弱拡大

非浸潤性乳管癌(針生検)

非浸潤性乳管癌(針生検) 強拡大

非浸潤性乳管癌(DCIS  Ductal carcinoma in situ)の新しい解釈(2022年6月追記)

アメリカの国立がん研究センターの専門家グループは最近、「がん」という言葉の再定義を求める報告書を発表し、特定の前がん状態や非致死性状態にはもはや適用しないよう提案しました。このような変更は、患者さんの恐怖心を和らげ、不必要で有害な可能性のある治療を受けようとする患者さんの気持ちを抑えることができる、と同委員会は書いています。この提案は、非浸潤性乳管癌(DCIS  Ductal carcinoma in situ)のうち低悪性度の病変に対する我々臨床医の直観にある程度沿った内容になっています。

The Okura Tokyo Aug. 2021

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乳房の葉状腫瘍について

乳房の葉状腫瘍について

乳房の葉状腫瘍(はじょうしゅよう、Phyllodes Tumor)は、稀な乳腺腫瘍であり、乳腺に発生する間質性の腫瘍の一種です。この腫瘍は、乳腺の間質と上皮の両方から成り立っており、腫瘍の形態が葉っぱのように見えることから「葉状腫瘍」と名付けられています。葉状腫瘍は通常、良性から悪性までの範囲で分類され、その性質や治療法も腫瘍の分類に依存します。乳房の腫瘍の中でも発生頻度は低く、乳癌とは異なる特徴を持っています。ここでは、葉状腫瘍の分類、症状、診断方法、治療法、および予後について詳しく説明します。

1. 葉状腫瘍の分類

乳房の葉状腫瘍は、良性(Benign)、境界悪性(Borderline)、および悪性(Malignant)の3つに分類されます。この分類は、腫瘍の組織学的な特徴に基づいており、以下の要素が考慮されます。

  • 細胞密度: 腫瘍を構成する細胞の密度が高いほど、悪性の可能性が高まります。
  • 核異型性: 細胞核の形態異常が見られるかどうかは、悪性度を判断する重要な指標です。
  • 細胞分裂像: 細胞分裂の頻度が高いほど、悪性度が高いとされます。
  • 境界の侵襲性: 腫瘍が周囲組織に浸潤しているかどうかも、分類に影響を与えます。

良性の葉状腫瘍は、通常、局所的な成長にとどまり、転移することはほとんどありません。境界悪性の場合、腫瘍は悪性化の可能性があり、再発率が高まります。悪性の葉状腫瘍は、周囲の組織に浸潤したり、他の臓器に転移するリスクが高く、悪性度が高い腫瘍とされています。

2. 症状

葉状腫瘍の最も一般的な症状は、乳房にしこり(腫瘤)が発生することです。この腫瘤は、以下のような特徴を持つことがあります。

  • 急速な増大: 葉状腫瘍は他の乳房腫瘍と比べて比較的急速に成長する傾向があります。患者は、数週間から数ヶ月の間にしこりが急に大きくなることに気づく場合があります。
  • 無痛性: 多くの場合、しこりは痛みを伴わないため、初期段階では気づかないことがあります。
  • しこりの硬さ: 葉状腫瘍は通常、硬くて滑らかであり、触診で容易に識別されることがあります。
  • 皮膚の変化: 腫瘍が大きくなると、乳房の皮膚が引き伸ばされて変形したり、潰瘍を形成することがあります。

これらの症状は他の乳房腫瘍、特に線維腺腫(Fibroadenoma)と類似しているため、臨床的には区別が困難な場合があります。したがって、診断の確定には画像診断や生検が必要です。

3. 診断

乳房の葉状腫瘍の診断には、以下の方法が一般的に使用されます。

  • 視診および触診: 臨床医は、乳房を視覚的に確認し、しこりの大きさ、形状、硬さを評価します。急速に成長するしこりは葉状腫瘍を示唆しますが、確定診断には他の検査が必要です。
  • マンモグラフィ: 乳房X線撮影で腫瘤の有無や性質を評価しますが、葉状腫瘍の特有の特徴を明確に示すことは少なく、他の腫瘍と区別するのは難しいことがあります。
  • 超音波検査: 超音波検査では、腫瘤の内部構造や境界をより詳細に観察することができます。葉状腫瘍は超音波で明瞭な境界を持ち、内部に液体を含むこともあるため、線維腺腫と異なる所見を示すことがあります。
  • MRI(磁気共鳴画像法): MRIは、腫瘍の詳細な画像を提供し、良性・悪性の区別に有用です。特に腫瘍の大きさや周囲組織への浸潤を評価する際に役立ちます。
  • 生検: 診断の確定には、腫瘍組織の一部を採取して顕微鏡で観察する生検が最も確実な方法です。細胞の形態や分裂の様子を確認することで、葉状腫瘍の良性・悪性の評価が行われます。

4. 治療法

葉状腫瘍の治療は、腫瘍の大きさ、場所、良性・悪性の分類に応じて異なります。基本的な治療法は手術ですが、場合によっては追加の治療が必要となることもあります。

  • 手術: 葉状腫瘍の治療の第一選択は、外科的切除です。良性の場合でも、腫瘍の周囲に十分な正常組織を含めて切除することが推奨されます。これは、再発のリスクを最小限に抑えるためです。悪性の場合や腫瘍が大きい場合、乳房全摘術が必要になることがあります。
    • 部分切除(腫瘍摘出): 腫瘍が小さく、悪性の可能性が低い場合、乳房を温存する部分切除が可能です。しかし、再発率が高いため、手術後も経過観察が重要です。
    • 全摘術: 悪性の葉状腫瘍や大きな腫瘍の場合、乳房全体を摘出する手術が行われることがあります。これは、再発や転移のリスクを軽減するためです。
  • 放射線療法: 悪性の葉状腫瘍の場合、手術後に放射線療法が行われることがあります。特に、再発のリスクが高い患者や腫瘍が完全に切除できなかった場合に有効です。放射線療法は、局所再発を予防するために使用されることが多いです。
  • 化学療法: 悪性の葉状腫瘍が転移した場合や再発した場合には、化学療法が行われることがありますが、葉状腫瘍に対する化学療法の有効性については明確なエビデンスが十分でないため、治療はケースバイケースで判断されます。

5. 予後

葉状腫瘍の予後は、腫瘍の良性・悪性の分類や手術の成功に大きく依存します。良性の葉状腫瘍は、適切に切除されれば再発のリスクは低く、長期的な予後も良好です。一方で、境界悪性や悪性の腫瘍は再発や転移のリスクが高く、予後はやや不良です。

  • 再発率: 良性の葉状腫瘍でも、再発することがありますが、通常は手術後の経過観察によって早期発見されます。悪性の場合、再発率が高く、再発した腫瘍はより悪性度が高くなる傾向があります。
  • 転移: 悪性の葉状腫瘍は肺や骨、肝臓などに転移することがあります。転移が確認された場合、化学療法や放射線療法が検討されますが、全体としては予後は不良です。

6. 経過観察とフォローアップ

葉状腫瘍の患者は、手術後に定期的な経過観察が必要です。これは、再発を早期に発見するために不可欠です。特に悪性の腫瘍や境界悪性の腫瘍の場合、術後の数年間は定期的な乳房検査と画像診断が推奨されます。再発や新たな腫瘍が発生した場合には、再手術や追加治療が検討されます。

結論

乳房の葉状腫瘍は稀な乳腺腫瘍であり、良性から悪性まで多様な性質を持つ腫瘍です。診断には画像検査や生検が必要であり、治療は主に手術が中心となります。葉状腫瘍の早期発見と適切な治療によって、患者の予後は大きく改善される可能性がありますが、悪性の腫瘍では再発や転移のリスクがあるため、術後のフォローアップが重要です。

<以上2024年10月作成>


虎の門病院

虎の門病院からのながめ

乳房葉状腫瘍は比較的乳房のまれな腫瘍で、全乳房腫瘍の1%未満とされています。葉状という名前は、腫瘍細胞が葉っぱのような構造をとって増殖することに由来しています。かつては葉状肉腫とも呼ばれていましたが、これは乳癌系統の腫瘍(上皮系の腫瘍)ではなく、肉腫系(間葉系の腫瘍)の腫瘍であることを意味しています。

大部分の葉状腫瘍は①良性と考えられており、稀に②悪性の葉状腫瘍があります。一部はその両者の中間(ボーダーライン)に位置すると考えられ、③ボーダーダイン病変と表現されます。①、②、③のいずれの病変も比較的早く増殖し、いずれも手術(腫瘍を切除すること)が必要と考えられています。

葉状腫瘍はどの年齢にも起きることがありますが、40代の女性に最も多く、良性はものは若い年代、悪性の腫瘍は、年配の方に多いという特徴があります。

葉状腫瘍の特徴の特徴をもう少し掘り下げて記述します。葉状腫瘍の病理組織学的な特徴は、上皮系細胞と間葉系細胞のそれぞれの成分の増殖がみられることです。
それらは前述のように良性、境界病変、悪性と病理組織学的に分類されてきました。しかし乳がんと違ってこのような病理診断は必ずしも転移、再発の診断の確実な予測につながりません。悪性と診断されていないのに、臓器転移をきたしたりする場合があるからです。治療の原則は完全な外科切除(腫瘍を確実に切除すること)です。通常は1cmの余裕を持って腫瘍を完全切除します。通常は乳房の部分的な切除が行われます。
しかしながら、局所再発率が高く、また悪性葉状腫瘍の20%程度が肺などに血行性転移をきたします。再発のリスクファクターとして、不十分な外科切除、間質の細胞増殖や異型性などが指摘されています。放射線や薬物療法の効果は明確でなく、術後の補助療法としては日常の臨床では勧められていません。なお男性の発症は極めて稀です。

葉状腫瘍治療のポイント

A 病理診断(良性、境界病変、悪性)と患者さんの術後経過(予後)に不一致が見られ、病態の解釈が難しい。

B 1cmの余裕を持って腫瘍を完全に切除することが治療の原則

C 臓器転移をきたす可能性があるのは、悪性または境界病変と診断された場合

D 薬物療法、放射線の役割は限定的である(臨床試験以外では術後補助療法としては行わない)

E 線維腺腫(乳房の頻度の高い良性腫瘤)との鑑別が術前には困難な場合もあり、その際は切除により最終診断を確定させる場合もある

(以上 2017年記載)

葉状腫瘍の画像写真(マンモグラフィーと造影MRI)

 

葉状腫瘍について

葉状腫瘍は楕円形のやわらかい腫瘍で、2~3ヶ月単位で比較的速く大きくなることを特徴としています。触診所見、超音波所見、マンモグラフィー所見はいずれも良性腫瘍の線維腺腫と酷似しており、診断は病理組織検査(切除または針生検)に基づきます。30代~40代の女性に好発しますが、必ずしも年齢は限定されていません。葉状腫瘍は乳腺組織を構成する上皮細胞と間質細胞のうち間質細胞から発生します。ちなみに上皮細胞が悪性化すれば乳癌であり、間質細胞が悪性化すれば肉腫となります。このため葉状腫瘍は肉腫の系統に属します。(かつては葉状肉腫と呼ばれていました) 葉状腫瘍は病理組織所見により悪性葉状腫瘍、ボーダーライン葉状腫瘍、良性葉状腫瘍の3つに分類されます。

治療について外科手術が基本になります。乳癌と違って放射線、ホルモン療法は無効であり、抗癌剤治療にも限られた効果しかありません。このため初回治療は通常手術による腫瘍の完全切除が原則となります。全身麻酔で手術を行い4日程度の入院が平均的な経過となります。術後の後遺症はほとんどありません。葉状腫瘍全体でみると95%以上の人が治癒するため、治癒率が75-80%程度の乳癌と比較するとかなりたちの良い病気といえます。

遠隔再発について葉状腫瘍をすべて含めると(良性、ボーダーライン、悪性)5%以下の確率で肺などに遠隔再発(致命的になる)します。いわゆる悪性葉状腫瘍と診断された場合は20%程度の方が遠隔再発します。一方ボーダーライン葉状腫瘍もまれに遠隔再発するため必ずしも良性とは言い切れないため、このように命名されています。このように葉状腫瘍は比較的たちの良い病気ですが、例外があるため必ずしも安心できないところがあります。遠隔再発と診断されてからの平均生存期間は2年6ヶ月です。

局所再発について最終的に葉状腫瘍の約20%が局所再発します。初回治療から局所再発までは平均2年程度と報告されています。またリンパ節に転移することはまれであるため、リンパ節を切除する手術は行いません。このため完全な局所切除が初回治療の原則となります。(腫瘍が大きければ乳房全摘手術が必要となることもあります。)局所再発は通常再手術により治療可能(治癒する可能性も高い)ですが、局所再発が遠隔再発の引き金になる可能性も完全には否定できないため、初回手術での腫瘍の完全切除が重要と考えられています。

(以上 2012年記載)

文責 虎の門病院 乳腺内分泌外科 川端英孝

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女性化乳房症

女性化乳房症について

1. はじめに

女性化乳房症(gynecomastia)は、男性において乳腺組織が異常に発達し、女性のように乳房が膨らむ状態を指します。この症状は一時的なものから慢性的なものまで幅広く、思春期や高齢者に多く見られます。見た目の変化により、患者に心理的なストレスや自尊心の低下を引き起こすことがあります。女性化乳房症の原因、症状、診断、治療方法、そして生活への影響について詳しく説明します。

2. 女性化乳房症の原因

女性化乳房症は、男性の体内でのホルモンバランスの乱れによって引き起こされることが一般的です。男性と女性の両方が、エストロゲン(女性ホルモン)とテストステロン(男性ホルモン)の両方を体内に持っていますが、男性の場合、通常はテストステロンが優位に働き、エストロゲンの影響は最小限です。しかし、何らかの理由でエストロゲンが相対的に多くなると、乳腺組織が刺激され、女性化乳房症が発症します。以下に、主な原因を挙げます。

2.1 ホルモンバランスの変化

ホルモンバランスの変化は、女性化乳房症の最も一般的な原因です。男性のホルモンであるテストステロンの減少や、女性ホルモンであるエストロゲンの相対的な増加が、乳腺の発達を促進します。以下の状況でホルモンバランスが変化することがあります。

  • 思春期:思春期の男児において、急激なホルモンの変動により、一時的な女性化乳房症が発生することがあります。この場合、多くは自然に解消されます。
  • 加齢:高齢になると、テストステロンの分泌が減少し、エストロゲンの影響が相対的に強くなるため、女性化乳房症が発生しやすくなります。
  • 新生児期:母親から胎盤を通じてエストロゲンが供給されるため、新生児の男児にも一時的に乳房の膨張が見られることがありますが、これは自然に消失します。

2.2 薬剤

いくつかの薬剤は、ホルモンのバランスに影響を与え、女性化乳房症を引き起こす可能性があります。これには以下のものが含まれます。

  • ステロイド:アナボリックステロイドやコルチコステロイドの使用は、体内のホルモンバランスを乱し、女性化乳房症を引き起こすことがあります。
  • 抗アンドロゲン薬:前立腺肥大症や前立腺癌の治療に使用される薬剤は、テストステロンの作用を抑制し、エストロゲンの影響を強めることがあります。
  • 抗うつ薬や抗不安薬:一部の精神科薬も、ホルモンバランスに影響を与えることがあり、女性化乳房症の発症に関連します。

2.3 疾患

いくつかの基礎疾患がホルモンバランスを乱し、女性化乳房症の原因となることがあります。これには以下のものが含まれます。

  • 肝疾患:肝機能が低下すると、ホルモン代謝が障害され、エストロゲンのレベルが上昇することがあります。
  • 腎不全:腎臓の機能低下によりホルモンバランスが崩れることがあり、透析を受けている患者に女性化乳房症が見られることがあります。
  • 甲状腺機能亢進症:甲状腺ホルモンの過剰分泌がホルモンバランスに影響を与え、女性化乳房症を引き起こすことがあります。

2.4 その他の原因

アルコールや違法薬物の使用も、ホルモンバランスに影響を与えることがあります。特にマリファナやアヘン類は、長期使用が女性化乳房症の発症リスクを高めるとされています。

3. 症状

女性化乳房症の主な症状は、片方または両方の乳房の膨張です。腫れの程度は個人差がありますが、触れると柔らかく、時には痛みや圧痛を伴うこともあります。症状は次第に進行することもあれば、急激に現れることもあります。

女性化乳房症は、以下のような特徴を持っています。

  • 乳房の腫れ:乳腺組織の増殖により、乳房が膨らむ。片側だけに発生することもあれば、両側に現れることもある。
  • 痛みや圧痛:腫れた乳房に痛みや圧痛が伴う場合もあり、特に衣服が擦れると不快感が強まることがあります。
  • 乳房の非対称性:片側の乳房のみが大きくなることもあり、見た目に左右差が生じることがあります。

4. 診断

女性化乳房症の診断は、患者の病歴、身体診察、そして必要に応じた検査によって行われます。診断の流れは次の通りです。

4.1 病歴の確認

医師は、患者の病歴を詳細に確認します。特に、薬物使用、基礎疾患、家族歴、ライフスタイル(アルコールや違法薬物の使用状況など)が重要な情報となります。女性化乳房症の症状がいつから始まったのか、急激な変化があったかどうかも確認します。

4.2 身体診察

医師は、乳房の膨張を視覚的に確認し、触診によって乳腺組織の増殖や硬さを確認します。また、乳がんなどの他の疾患の可能性を排除するために、しこりの有無もチェックします。しこりが見つかった場合は、悪性腫瘍の可能性があるため、さらなる検査が必要です。

4.3 血液検査

ホルモンバランスの異常を確認するために、血液検査が行われます。具体的には、テストステロン、エストロゲン、甲状腺ホルモン、肝臓や腎臓の機能を評価するための血液検査が含まれます。

4.4 画像検査

乳房の構造をより詳しく評価するために、超音波検査やマンモグラムが行われることがあります。これにより、乳腺組織の状態や、腫瘍の有無を確認します。

5. 治療法

女性化乳房症の治療は、原因に応じて異なります。多くの場合、時間とともに自然に解消することもありますが、症状が持続したり、心理的な影響が大きい場合には治療が必要となります。主な治療法を以下に示します。

5.1 経過観察

思春期や一時的なホルモンバランスの変化によって女性化乳房症が発症した場合、通常は特別な治療を必要とせず、経過を観察することが推奨されます。多くのケースでは、数か月から1年以内に症状が自然に改善します。

5.2 薬物治療

ホルモンバランスが原因で女性化乳房症が発生している場合、ホルモン療法が行われることがあります。以下の薬剤が使用されることがあります。

  • 抗エストロゲン薬:エストロゲンの作用を抑える薬剤が使用されることがあります。タモキシフェンなどがその一例です。
  • アンドロゲン補充療法:テストステロンの不足が原因である場合、テストステロン補充療法が行われることがあります。

5.3 外科的治療

薬物治療や経過観察では改善しない場合、外科的治療が検討されます。特に、見た目の問題が大きく、日常生活に支障をきたす場合に推奨されます。以下の手術が一般的です。

  • 乳腺切除術:余分な乳腺組織を外科的に除去する手術です。手術は小さな切開で行われるため、術後の傷跡は比較的目立ちにくいです。
  • 脂肪吸引:脂肪が過剰に蓄積している場合、脂肪吸引を行うこともあります。これは乳腺切除術と併用されることが多いです。

6. 予防

女性化乳房症を完全に予防することは難しいですが、リスクを低減するための対策があります。

  • 薬剤の管理:医師の指示なく薬剤を使用しないようにし、長期間のステロイドや抗アンドロゲン薬の使用には慎重になる必要があります。
  • 健康的な生活習慣:アルコールや違法薬物の使用を控え、バランスの取れた食事や適度な運動を心がけることで、ホルモンバランスを整えることができます。
  • 基礎疾患の管理:肝臓や腎臓、甲状腺の疾患がある場合は、定期的な医療チェックを受け、適切な治療を受けることが重要です。

7. 生活への影響

女性化乳房症は、身体的な変化だけでなく、心理的な影響も大きいです。特に、思春期や青年期の男性において、胸の膨張は他者との比較や社会的なプレッシャーを強く感じさせることがあります。自尊心の低下や社会的な孤立を引き起こすこともあり、心理的なサポートが必要となることがあります。家族や医療チームとの連携が、患者の生活の質を向上させるために重要です。

8. 結論

女性化乳房症は、男性にとって身体的にも心理的にも影響を与える状態ですが、原因を特定し、適切な治療を行うことで多くのケースは改善します。早期の診断と治療が重要であり、ホルモンバランスの乱れや基礎疾患の管理が鍵となります。また、患者が適切な情報を得て、自己管理と医療チームのサポートを受けることで、女性化乳房症による生活への影響を最小限に抑えることが可能です。

以上、2024年10月作成

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1. 定義

女性化乳房症は男性の乳腺組織の良性の増殖性変化と定義され、通常エストロゲン活性の増加、アンドロゲン活性の低下、あるいは様々な薬物の使用によって引き起こされる。クラインフェルター症候群のように性分化異常に伴う稀な遺伝性の疾患もあるが、大部分は自然軽快し経過観察のみで治療を必要としない。臨床的には男性乳癌との鑑別が重要である。

2、病態生理

何らかの原因により、乳腺組織の増殖を抑制するアンドロゲンが減少し、増殖を刺激するエストロゲンが相対的に増加することで発症する。

表1 女性化乳房症の原因

1.生理的乳腺の肥大
2.内分泌疾患に合併:睾丸疾患、下垂体・副腎腫瘍、バセドウ病、ホルモン産生腫瘍など
3.性分化異常に伴うもの:クラインフェルター症候群など
4、その他の疾患に合併するもの:肝疾患、腎疾患、肺疾患、糖尿病など
5、薬剤性に発症するもの
6、特発性(原因不明)のもの

表2  女性化乳房症の原因となりうる代表的な薬剤

1.ホルモン剤   エストロゲン剤、アンドロゲン剤など
2.抗アンドロゲン剤 アンドロゲン合成阻害剤   ビカルタマイド、ゴセレリンなど
3、抗生剤   メトロニダゾールなど
4、抗潰瘍剤   シメチジン、オメプラゾールなど
5、化学療法剤   メソトレキセート、アルキル化剤など
6、心臓血管薬剤   ジゴキシンなど
7、向精神薬  ジアゼパムなど

3、原因疾患

原因疾患を表1に分類して記載する。この中では薬剤性の女性化乳房症が多く、身体診察に加え、既往歴・内服薬の聴取が重要である。原因となる薬剤を表2に記載した。

4、診断および治療・対処法

身体所見、現病歴・既往歴・内服薬の聴取により女性化乳房症の診断を下す。画像診断としては乳腺超音波、マンモグラフィー検査が乳癌との鑑別に有用である。原因のスクリーニングとして各種ホルモン値も含めた血液検査の実施も検討する。一般に思春期、青年期の女性化乳房症は生理的・特発性の女性化乳房症が大部分を占めで、自然消退が多く積極的治療を要しないことがほとんどである。中高年以降は薬剤性の割合が多く、また乳癌との鑑別を念頭に置く必要がある。薬剤性の場合はリスク・ベネフィットを検討した上で薬剤の中止または変更を考慮する。つまり原疾患の種類によっては、乳腺肥大の原因となっている薬剤が原疾患の治療に不可欠で中止困難であり、副作用としての乳腺肥大は許容して経過観察することが現実的判断となる。特に高齢者は多剤を内服している場合が多く、原因薬剤の診断、またこれら薬剤の中止、変更の実施が困難な場合も少なくない。以上のような経過観察も含めた保存的対応を行っても、疼痛が強く、また整容的に問題がある場合などは手術による乳腺組織の切除も選択肢になるが実施されることは稀である。

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オンコタイプDXについて

概略

オンコタイプDXは、乳がん患者の個別化治療に役立つゲノムプロファイリング検査であり、米国のGenomic Health社によって開発されました。この検査は、乳がん細胞内で特定の遺伝子の発現パターンを解析し、再発のリスクや化学療法の効果を予測することを目的としています。乳がんの他にも、結腸がんや前立腺がん向けのオンコタイプ検査が開発されていますが、最も普及しているのは乳がん向けの「オンコタイプDX乳がんアッセイ」です。

オンコタイプDXは、術後の治療戦略を決定する際に重要な役割を果たしており、主にエストロゲン受容体(ER)陽性でリンパ節転移がない早期乳がん患者に用いられます。検査結果は「再発スコア」として数値化され、再発リスクの低い場合にはホルモン療法のみで治療を行い、高い場合には化学療法を追加することが推奨されるなど、患者ごとに最適な治療方法を提案する手助けとなっています。

歴史

オンコタイプDXは、2004年に米国で乳がん治療のサポートツールとして登場しました。これまで乳がんの再発リスクは年齢、腫瘍の大きさ、ホルモン受容体の状態、リンパ節転移の有無などに基づいて評価されていましたが、これらの従来の指標では限界があるとされてきました。Genomic Health社は、がんの発生と再発に関わる遺伝子の発現をより精緻に評価することで、より正確な予測が可能になることを目指しました。

開発当初のオンコタイプDX乳がん検査は、米国国立がん研究所(NCI)や多くの主要な臨床研究機関によるサポートを受け、化学療法が本当に必要かどうかを見極める手助けができる可能性を持つものとして注目されました。現在では、オンコタイプDXは米国、日本、欧州など多くの国で広く承認され、医療ガイドラインにも記載されるまでに成長しました。

目的

オンコタイプDXは、患者の乳がん再発リスクと化学療法の有用性をより詳細に評価することを目的としています。具体的には、以下の目的を果たします:

  1. 再発リスクの評価:オンコタイプDX検査の結果として得られる再発スコアは、患者の再発リスクを数値化したものです。スコアが低い場合、再発リスクが低いと判断され、ホルモン療法のみで治療が完了する可能性があります。
  2. 治療効果の予測:スコアが高い場合、ホルモン療法に加えて化学療法が推奨されることがあり、化学療法の効果が期待できるかどうかを予測します。
  3. 個別化治療の実現:患者ごとに異なる遺伝子プロファイルを考慮することで、不要な化学療法を避けつつ、最適な治療プランを提供することが可能になります。これにより、患者のQOL(生活の質)を向上させることが期待されています。

利点

  1. 治療の個別化:オンコタイプDXは、患者の遺伝子プロファイルに基づいて治療の選択肢を最適化することを目指しています。従来の予後評価方法と比べて、患者ごとにきめ細かい治療計画を立てることができます。
  2. 化学療法の不要な使用を回避:再発スコアが低い患者には化学療法が不要であることを示唆し、化学療法に伴う副作用や合併症のリスクを回避できます。これにより患者の生活の質が向上し、医療費の削減にもつながります。
  3. 医療のコスト削減:オンコタイプDXによって化学療法が不要と判断された場合、治療にかかる医療コストを大幅に削減することができます。医療制度においても、不要な治療を避け、リソースを効率的に活用することが可能となります。
  4. 科学的エビデンスに基づく治療選択:オンコタイプDXは複数の臨床研究や試験によってその有効性が示されています。これにより、医師や患者が科学的な根拠に基づいて治療方針を選択するための重要な指標となります。

限界

  1. 対象患者の限定:オンコタイプDXは、ER陽性かつリンパ節陰性の早期乳がん患者を主な対象としています。トリプルネガティブ乳がんやHER2陽性乳がんには適用されません。このため、すべての乳がん患者に対して使用できるわけではなく、適用範囲が限定されています。
  2. 高コスト:オンコタイプDXは高度な技術を用いているため、検査費用が高額です。日本では一部の医療保険が適用されるものの、全額を負担しなければならない国や地域もあります。高コストが障壁となり、すべての患者に実施するのは難しいケースもあります。
  3. 検査結果の解釈:再発スコアは一定の確率に基づいて予測されるものであり、必ずしも個々の患者に対する完全な予測ではありません。再発リスクが高いと判定されても必ず再発するわけではなく、逆もまた然りです。そのため、スコアだけに頼らず、他の診断結果や患者の状況も考慮する必要があります。
  4. 技術的限界:遺伝子発現に基づく予測モデルであるため、がんの進行に影響を及ぼすすべての要因をカバーしているわけではありません。がんの再発や進行は、環境要因や他の生物学的要因にも影響されるため、オンコタイプDXの予測に過信することなく、総合的な視点からの診断が重要です。
  5. 保険適用と利用可能性の制限:オンコタイプDXの費用が高いため、すべての医療機関で利用できるわけではありません。特に発展途上国や保険が適用されない地域では、利用が難しい場合があります。また、医療保険の適用がある場合でも、すべての患者が検査を受けられるわけではないため、適正な利用が課題となっています。

まとめ

オンコタイプDXは、乳がん治療において個別化医療を実現するための強力なツールです。その導入により、再発リスクや治療の効果をより正確に予測することが可能となり、患者にとって最適な治療方針を決定する手助けとなります。特に再発リスクが低い患者に対して化学療法を回避し、副作用の少ない治療法を提供できる点は、患者のQOL向上に大きく寄与しています。

一方で、オンコタイプDXには対象患者が限定されていることや高コスト、解釈の難しさなどの限界もあります。今後、技術の進歩により、より多くの患者にとって使いやすい価格で提供され、さらに幅広い乳がんタイプに対応できる検査が開発されることが期待されます。

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リンパ浮腫について

乳がん術後のリンパ浮腫について

1、 定義

国際リンパ学会では、リンパ浮腫は「an external (or internal) manifestation of lymphatic system insufficiency and deranged lymph transport」と定義されている。つまり何らかの原因により、リンパ流が阻害され、タンパク質を高濃度に含んだ組織液が組織間に貯留した状態をリンパ浮腫と定義している。

2、病態生理

人間の身体の60-70%は水分であり、細胞内と細胞外に2:1の割合で分布している。その細胞外液は血液、組織間液、リンパ液に分類される。毛細血管の動脈側から漏出した水分、たんぱく質、電解質は、大半は毛細血管の静脈側に吸収されるが、一部はリンパ管に吸収され、リンパ流として静脈へ還流する。このタンパク質に富んだ体液がリンパ液である。リンパ管が機械的または機能的に閉塞したり狭窄したりするとリンパ流は停滞し、リンパ管内に吸収できなかったタンパク質が組織間に貯留する。すると、浸透圧により血管内の水分が組織間隙に引き込まれ浮腫を形成する。これがリンパ浮腫の実態である。

3、原因疾患

リンパ浮腫は、原発性(一次性)と続発性(二次性)に分類される。前者は原因が明らかでない特発性と遺伝子異常に伴う先天性とに別れる。後者はリンパ管の炎症や、腫瘍の浸潤、手術などによるリンパ流のうっ滞が原因となって浮腫が生じるもので、以下のように様々な原因疾患がある(表1)。
全世界的にはフィラリア症の占める割合が多いが、本邦では手術(リンパ節郭清)や放射線照射に伴うリンパ浮腫が多い。

4、分類

国際リンパ学会では、皮膚の状態によりリンパ浮腫を4つの病期に分類している。(表2)この他、片側性のリンパ浮腫に対しては左右差の程度による分類がある。

5、治療・対処法

乳癌の術後などのStage0の段階では、StageI~IIIへの進行を防止するため、予防対策の励行が重要である。日常生活で、表3に記載したような心がけを行うよう患者への指導が必要である。
StageI以降は従来、複合的理学療法(CDT)が有用とされてきたが、これのみでなく上述の日常生活での予防対策も併用していくことが重要である。リンパ浮腫に対する治療は、CDTに日常生活上の注意を含めて「複合的治療」または「複合的理学療法を中心とする保存的治療」と呼ばれるようになっている。
CDTは国際的に広く認知されている療法であり、以下の4つから構成される。

a. 用手的リンパドレナージ

皮膚面表面の浮腫液を深部のリンパ系に促すマッサージのことである。身体の末梢側から中枢側に向かって、手のひらを皮膚に密着させて表皮をずらすような感覚で行う。強く揉むと炎症が起こったり皮膚を傷つけたりすることがあるため、優しく軽く行うことが重要である。正しいドレナージ法を指導する必要がある。

b. 圧迫療法(写真1)

目的は、リンパドレナージにより細くなった患部を細いままに維持することである。外から圧を加える事により、組織間に漏出してくるリンパ液の圧に対抗するわけである。これには、弾性ストッキングやアームスリーブの着用や弾性包帯によるバンデージが必要になる。日常生活でも使用していくため、着用しても苦しくなく動きに支障が出ないように、そして血流が途絶えるほどに強い圧をかけないように、適当な圧で使用することが重要である。

c. 圧迫した上での患肢の運動

患側を安静に保つのではなく、弾性ストッキング着用やバンデージをした状態で無理のない範囲内で適宜な運動を行うことがリンパ流の促進に繋がる。

d. 患肢の清潔

皮膚の清潔と保湿を保つことで感染の予防となる。ここで、リンパ浮腫の際に最も気をつけるべき感染とは蜂窩織炎である。リンパ浮腫の状態では組織間にタンパク質と水分が過剰に貯留し循環が悪くなっており、僅かな細菌が侵入しただけでも繁殖しやすい環境を作っている。細菌が四肢に広がり強い炎症が起こる事で、血管壁の透過性が亢進し、さらに浮腫が増悪する。臨床所見上は、皮膚の発赤の出現と疼痛を認め、発熱を伴うこともある。蜂窩織炎の治療は患肢の挙上と冷却、抗生剤の投与である。再発が多いため、十分な抗菌薬治療が必要である。

以上のように、治療の基本は保存的治療であるが、悪化を防止できず象皮症になってしまった場合や保存的治療抵抗性で日常生活に支障がある場合は、外科的治療(リンパ管静脈吻合術など)を考慮する。

 

廣田彰男先生のリンパ浮腫のページ

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